なんで。

なんで、なんで。



「えー。今日から新しいクラスメイトの、岩倉 陽菜さんだ」



なんで、あいつがここにいるの!?


いや。

“あいつ”なんて呼んではいけない。

なんで、“彼”がここにいるの!?



「岩倉さん? 自己紹介……」



担任の橘先生がなにかを隣で言っている。


自己紹介、だと?

そんなの今の私に出来るはずがない!

なぜなら、教室の窓際、1番後ろの席に座る“彼”の存在に驚いているからだ。


“彼”を指差したまま固まっている私。

しかも口を大きく開けて。


今にも叫びだしそうな私が、転校の挨拶の定番“自己紹介”なんて出来るはずがない!



「岩倉さん」



驚きとドヤ顔で、心の中がいっぱいになる。

心の中がドヤ顔でいっぱい、ってどういうこと。


いや、今は、そんなツッコミをしている暇はない。

忙しくもないけれど。


って、そうじゃなくて。



「岩倉 陽菜っ! “彼”に驚くのは仕方がないが、自己紹介くらいしなさいっ!」



キーーンッ!


隣で橘先生の、大きな怒鳴り声が私の鼓膜を突き破る。



「はいっ! すみませんっ!」



思わず謝るが、私は一体誰に対して謝っているのだろう。

教室からクスクスと笑い声が聞こえる。

“彼”は柔らかく微笑んでいた。