「うん。大丈夫。
それより、何してたの?
ヴォーン ヴォーンって何の音?」
「あ!ごめん!
この部屋まで聞こえてたの?
だったら起こしちゃったね。
あの音の正体は新しいハンドミキサーだよ!
この前、買ってもらったから嬉しくてホイップ作ってみたの。
昨日の帰りのスーパーで生クリームを買ったでしょ?早速試してみたかったの!
ねえ。目は覚めた?
パンケーキも焼いたから朝食にしようよ!」
何かを察したのか、早口でまくし立てそう言うと僕から離れようとするが、逃がさない。
ベッドから落ちた衝撃の際の音が部屋から漏れたおかげで、ぬくもりの正体が現れたのだから逃がすはずがない。
彼女とはもちろん四季のことだ。
僕たちが付き合い始めて直ぐに"四季ちゃん"から呼び捨てにし、朱莉さんが上司である山田課長との縁談が纏まり晴れて僕たちは一緒に住むことになった。
四季本人の反応はというと、まだ早いとか。一人暮らしをしてみたかった。と可愛らしい抗議を受けたが。
最終的には朱莉さんから一人暮らしは駄目と一蹴されこの話は幕を閉じ、無事に同棲が決まったわけだけど。
朱莉さんはいつまでも彼女にとっては親代わりなのは変わらない。
そういう関係性を壊さないように僕は大事に見守ろう。
うん。確かに、彼女からは甘い香りが漂っている。