「すきだよ、今までありがとう」
そんな言葉で彼との最後の電話は切られた。

今思えば突っ込みたくなるような言葉だ。
好きなら何故私を手離すことを選ぶのだ,と。

ただ、私を笑わせようとする優しい所が
辛いことにも諦めずに立ち向かう姿が、
好きだと言ってきつく抱きしめてくれる所が
本当に心の底から好きだった。

けれどもう、その全てを私に注いではくれない。
だから、私は彼から離れることを決めた。

もしも、心底私のことを引き止めてくれて
いたら結果は変わっていたかもしれない。

明日の朝もいつもの優しい声で
「ごめんね」と、
「実莉の事がすきだよ」と、
言ってくれていたかもしれない。

8月。
今晩はより一際蒸し暑い。
私は全身を包んで涙で濡れた薄い掛布団から
這い出て、滑りの悪い網戸を開けた。

夜空の中の半月を見ていたら
クレーターを埋めてあげたくなった。
凹みを埋めて綺麗な球体したら
もっと美しく見えるのでは無いかと思った。

月は同質の岩石か何かの物質を
埋め込めばどうにか丸くなるかもしれない。
でも私は…。
私は何で月よりも窪んだ見えない穴を
埋めたらいいのだ。

私はスマホ手に取り両肘を窓際に置いて
彼からの通知を開いた。
「今まで、ありがとう。」

一頻り泣いた涙は再び栓を切って溢れた。
私は網戸を閉めた後、
夜の孤独に目を閉じた。