「ありがとうございました!
またお越しください。」

昼時で絶え間なくやってくるお客を母親とともにさばき終わり、やっとひと段落したころ、いつもお金を払わないお武家様のひとりがやってきた。

どうやらこのお店はただで食べられるという変な噂が広がっているらしく、日に3人ほどこんなお客がやってくる。

店で一番高い日替わり膳を注文し、食べ終わるとそのまま逃げるというのが常套手段の為、この日だけは逃がさないと、私は意気込んでいた。

店を出た瞬間が勝負、そう心に決めていてお武家様が出ていったのを確認し、私は台所から竹刀をもって飛び出した。

「今日こそはお金を払ってください。」

そう叫びながら竹刀を相手に振りかざすと、左腕にあてることができた。

ここからが私の演技の見せ所、と一呼吸おいて、真剣に見せかけた模擬刀を振りかざしてきたお武家様の攻撃を受け止める。

突きや銅で攻撃し、相手がひるむのを待っていたが、相手は一向に倒れなかった。

シナリオでは突きを受けて倒れると書いてあったのに、倒れない相手を見て私は攻撃をかわしながら目で合図を送った。

「ちょこまかとかわしやがって、もう許さない!」

倒れるどころかさらにやる気になっていく相手の攻撃を何度か竹刀で受けていると、なぜか竹刀に斬られたような傷ができていることに気がついた。

そろそろ竹刀が限界で、早く決着をつけなければ撮り直しになる、そう心の中で思っていた時、横からお武家様の刀を受け止める一本の刀が出てきた。