「杉崎、帰るぞ。」

いつの間にか先ほどまでの喧騒は嘘のように静かになり、私の隣には斎藤先生がいた。

それ以上何も言わずに私を立たせると、斎藤先生は私のことを支えながら歩き出した。

気がつけば朝陽が昇っており、ここで数時間しゃがみこんでいたようだった。

屯所までゆっくりと歩き、着いた頃にはほんの少しだけ、落ち着きを取り戻していた。

「すみません、役に立てなくて…

他の方はどちらに行ったのですか?」

私はやっとの思いで言葉を紡ぎだした。

「逃したやつを追っている。

お前は役立たずなんかじゃない。杉崎がいなかったら永倉は死んでいただろう。

杉崎が刀を交わしていたのは吉田稔麿という尊王攘夷派の中心的人物だった。

でも、杉崎は連れて行かないほうがよかったのかもしれないな。

初めてだろ?」

斎藤先生は私が初めて人を殺めたということに気がつき、連れて行ったことひどく後悔しているようだった。

「でも、役に立ちたい…
それじゃあ、駄目なのでしょうか。」

斎藤先生から見放されたくない、その一心で私は斎藤先生のもとに残りたいという意思を告げた。

「俺は、お前に死んでほしくないんだよ!」

思っていたことと違う言葉が返ってきて、私は驚きが隠せず、その場で固まってしまった。

「だから…!
俺はお前に死んでほしくない、一途に稽古に励むお前を見ていて今ではずっと一緒にいたいと思っている。」

「それって…」

「あぁ、お前のことが好きだ!
だから、お前を危ない目に会わせたくはない。」

突然の告白に私は驚いてしまったが、心は前から決まっていた。

「私も、斎藤先生のことをお慕い申しております。」

私は考えることなく、斎藤先生にその言葉を返した。