「お武家様だからって、何をしたっていいわけじゃないでしょ!」

「ふん、知ったことか。
俺らが食べに来てあげているから、仕事ができているんだろ。」

「お金を払っていただけていないから、私はここ数か月給金をいただいていません。」

「だから何だよ。
ただの町娘がいい気になってるんじゃねえぞ。」

私、杉崎愛望は今来春公開予定の映画の撮影をしている。

今回の映画は新選組を題材にしたもので、私の役は食事処を営む女性である。

この女性は一見端役に見えるのだが、実は武道に優れているという女主人公だ。

「そこのおなごに何をしている。
さっさと剣をしまえ、さもなくば斬る!」

ここで登場するのが見廻りをしていた新選組隊士、斎藤一。

寡黙な人という役柄で描かれる本作のメイン人物だ。

「お前は…
新選組隊士か?」

「いかにも。
そなたに名乗る義理などないが、どうせここで死ぬのだから冥土土産にやろう。

俺の名前は新選組三番隊組長、斎藤一だ。

ここで会ったことを後悔するがいい。」

そう言って、私の目の前にいる斎藤一は武士に斬りかかった。

刀が当たると同時に血のりが飛び散り、さながら本物の殺害現場のようだ。

「別に助けてくれなくたって、これくらい私だけでどうにかできたわ。」

「じゃ、次からは見かけても助けてやらない。」

そう言い残して去っていく斎藤一を私は愁いを帯びた目で見つめる。

『カット!!
愛望ちゃん、いいよ!

今日はここまでにしよう。はい、撤収!』

「監督、お疲れさまでした!」

「愛望ちゃん、今日はもう上がっていいよ。
学校との両立大変だろうから、こういう日くらい早く寝たほうがいい。」

「ありがとうございます!
皆さん、お先失礼します。」

午後3時、私は監督の言葉に甘え、先に家に帰宅した。

そして家に着くなり、ご飯も食べず、着の身着のままベッドに入ってしまった。