5年という歳月はあまりにも長く、江戸の町はかなり変わってしまっていた。

あの頃の、自分たちが戦っていたころの面影はなく、西洋かぶれの老若男女が町を普通に歩いていたのだ。

ついに自分たちも処刑される日が来たのだろう。

そう覚悟を決めていた私たちに告げられた言葉は意外なものだった。

「ご足労いただき、すまない。

君たちをここに呼んだ理由はただひとつ。

明治政府を担うひとりとしてこの国の治安を守る警察官になってほしい。」

目の前の男性は私たちにそう告げた。

明治政府、警察官、知らない単語がいくつも出てきたことは否応なしに旧幕府軍が完全敗北したということを暗に示していた。

そして私たちを敵だった新政府軍の一員として迎え入れるというこの上なく惨めなことを告げたのだった。

「もし、断ると言ったら?」

斎藤先生はわかりきっていたことにも関わらず、あえて断ったときにどうなるのかを聞いた。

「もちろん、公開処刑に処す。

君たちが投獄されている間に新政府軍が勝利し、今日本は大きな変革の時を迎えている。

君たちにはそのいけにえとなってもらう。

旧幕府軍の残党が残っていたとなれば市民たちの注目の的になるだろう。」

処刑。

その言葉は私の心に重く響いた。

近藤先生もかつて新政府軍にとらえられ、処刑されていたのだ。

自分も今同じ道をたどりかけていると思うと私は何も言葉を発することができなかった。

「わかりました。
俺はあなた方に従います。

しかし、杉崎だけは解放してやってください。
もうお分かりかもしれませんがこいつは女です。

今の今まで戦い続けてきたのですからそろそろ女として生活させてやりたい。

その分、俺が警察官としての職務を全うするからお願いします。」

そう言って斎藤先生は深々と頭を下げた。

私は斎藤先生の予想外の言葉に戸惑い、遅れて言葉を発した。

「自分はこのまま男として警察官になります。
斎藤先生だけに重責を背負わせたくありません。」

これは私の心からの叫びだった。

今まで何度も守ってくれた斎藤先生にまた守られるのは嫌だったのだ。

斎藤先生が歩む道は自分の道であり、願わくば同じ道をこれからも歩みたいと思うのは、やはり斎藤先生が好きだからなのだろう。