壬生狼の恋ー時を超えたふたりー

ふたりきりになっても私たちは動くことはなかった。

今はただ、これから言われるであろう運命を受け入れるしかなかった。

半刻経ってもずっと暗い顔をしている私に見かねた斎藤先生が優しい声で私に声をかけた。

「寒いだろう。
愛望こっちにおいで。

凍えた身体を俺がぎゅって抱きしめて温めてあげるから。

嫌なことは全部俺が忘れさせてあげるから。

さぁ、今はもう何も考えるな。」

本当に斎藤先生は優しすぎる人だ。

私の感じている思いをすべて察したうえで自分もその苦しみを受けるというのだから。

斎藤先生に言われてもその場から私は動けなかった。

すると斎藤先生が近寄ってきて、さっきみたいに私のことを優しく抱きしめてくれたのだった。

「斎藤先生…」

「今は何も言うな。
何も考えなくていい。

ただ俺に抱きしめられていることだけを感じてろ。」

命令口調で言うのにそれはとてもやさしい声で、私はそれ以上何も言わずにただ私のことを抱きしめている斎藤先生の腕の中でその幸せを感じていた。

その日斎藤先生は一晩中何も言わずに私のことをずっと抱きしめていてくれた。

抱きしめられている私の顔は斎藤先生の胸元に隠れてしまっていたので、斎藤先生がとてもつらそうな顔をしながら私のことを抱きしめていることなど私は知らなかった。