すれ違うメイドさんたちにエドが「ご苦労」と声を掛けると、「ありがとうございます」と私たちに返ってくる。その視線が異様に温かい。

 だけど、人気のない通路で立ち止まったエドの笑みはいつもと違って見える。

「さっきの話ね……今も昔も、僕の想い人はリイナのことだから」

 口調も、言葉も、いつも通り優しかったけれど。

「だから、君の心変わりには驚いちゃったけど……これからは剣も練習するから、少し待っててくれる?」

 笑顔で離された手に残ったのは、痛みだけ。
 その笑みに、いつもみたいな温かさを感じることが出来なくて。

「私の方こそ……早計は行動をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「別に気にしていないよ。僕のために色々してくれようとしたんでしょ? ありがとう。その気持ちがすごく嬉しいよ」

 私が昔からの『リイナ』でないとバレたのなら、彼はどう思うのだろうか。
 怒るのだろうか。悲しむのだろうか。嘆くのだろうか。

 それでも、誰も通らない薄暗い通路の隅っこで、

「僕は、頑張って君の好みの『いけめん』になるから……これからもよろしくね」

 キラキラ輝く金糸の髪。色白の肌にも大きなトラブルもない。痩躯とは言えないけれど、だいぶ引き締まってきた長身の王子が跪いて。

 その瞳は前髪に隠れて見えないけれど、私がひっそりと擦っていた手を取って。

 その甲に口づけして。

「僕のリイナ」

 と、私に向かって微笑むエドワード王子に、私の胸はドクンと高鳴る。

 それがときめきなのか、罪悪感なのか。
 私には判断することが出来なかった。