「愛国精神がないわけではないんだけどさ……その……自意識過剰というか……自分の国大好き! て感じすぎて……そそ、それこそ、き、気持ちい悪くないかな?」

 うわぁ、ちょっとショック!
 この見た目無頓着だった白豚王子にセンスを「気持ち悪い」言われるの、なんだかショック。

 まぁ……私も何回も言っておりますし……と「コホン」と咳払い一つして、

「で、でしたら、ご希望の言葉はありますか?」

「うーん……というより、今みたくお喋りしながら走るんじゃダメなの?」

「そもモゴモゴと話す癖を改善してもらいたいので、できるだけ大声でハッキリ叫んでほしいのです」

「なるほど」

 そう納得はするものの、どうも王子の顔は晴れない。

「ダメですか?」

「ダダダ、ダメじゃないけど……で、でも……恥ずかしいかな」

 かな、じゃねーやい。ぶりっ子していい見た目じゃないでしょうが!
 私は一呼吸置いて、再び彼の意向を聞く。

「エドワード様が恥ずかしくない言葉でいいのです。何かありませんか?」

「そそそ、そこまでリイナが言うのなら……は、走りながらさ、僕がリイナに質問するから……そそそそそれにリイナが答えてくれたら、僕、頑張れるかも……」

 まぁ、どのみち掛け声の合いの手を入れるくらいの心づもりはあったのだ。

「そのくらいでしたら……」

 私が了承すると、エドワード様は急に破顔して、

「じゃあ、僕頑張るね!」

 と、走り出す。

 相変わらず庭園を、ぽよん、ぽよん、と弾む肉だるま。
 一周回って微笑ましく見守っていると、それは突然始まった。

「僕のこと好きいいいいいいいいいいい?」

 はいいいいいいいいいいいい?
 何言った? このデブ白豚王子は何を叫んだ?

「リイナはあああああ、僕のことおおおおお、好きですかああああああああ?」

 聞こえているから! わざわざ丁寧に言い直さなくていいから!

 ほら、警護の衛兵さんが笑いを堪えるのに必死だよ? 城の窓を掃除しているメイドさんがガッツリこちらを向いて驚いた顔をしているよ?

「リイナあああああああ、聞こえてるうううううううううう?」

「き、聞こえてます……」

 か細い声で答えると、王子はピタッと立ち止まって、だけど声は張る。

「ならなんで答えてくれないのおおおおおおおおおおお?」

 掛け声よりこっちの方が何百倍も小っ恥ずかしいわバカ野郎!

 え? これ本当に答えなきゃダメパターン?
 一応婚約者なんだし、お城のど真ん中だし、当然告白にはイエスと答えなきゃいけないわけだよね? 「私も好きです」て言わなきゃいけないんだよね?

 王子だけじゃない。近衛兵さんとかメイドさんとか、ありとあらゆる視線が私に集まっている。深呼吸を三回。私は意を決して口にした。

「私も……好きです……」

「聞こえないよおおおおおおおおおおおおおお!」

 ど畜生おおおおおおおおおおおおおおおおお!




 その後、徐々にヒートアップしていき。

「ねぇ、僕のどこが好きいいいいいいいいい?」

「お優しいところですううううううううう!」

 だって、返事をしないとすぐに立ち止まってしまうから。

「僕とどんな夫婦になりたいいいいいいいいい?」

「仲睦まじく支え合っていきたいですうううううううう!」

「嬉しい! 僕もおおおおおおおおおおおおおお!」

 またたく間に、熱愛すぎるカップルとして噂が広まったのは――――

「僕のことエドって呼んでえええええええええええ!」

「え?」

「呼んでくれないとまた走れなくなっちゃうかもおおおおおおおお!」

 とても、遺憾な話だ。