「え……?」
私自身と、目の前の私が同時に戸惑いの声をあげます。
ぱさりと、背中までの長さを耳の高さでサイドにまとめた私の髪が、目の前の彼女から私の頬の傍に垂れ落ちてきました。
瞬間、彼女はがばっと跳ね起きます。
「花住さん、圭、怪我とかない?」
彼女と私を古道くんが交互に見て心配そうな顔をするのですが、彼女は答えず、私はひとまず「ええと、はい」とだけ返事をしました。
その「ええと、はい」の声が、おかしいのです。
喉の震え方に違和感もありました。けれど一番おかしいのは、その低さでした。私の口から発したことのない声が出たのです。
それに戸惑って口をおさえると、また違和感がありました。私の手はこんなに骨々しかったでしょうか。それに、顎だってこんな輪郭だったでしょうか。
「圭?」
古道くんが私を見て、知らない名前を呼びます。
「え?」
起き上がろうとした私の手に硬く平べったい何かが当たり、それが自分のスマホであることがわかると、思わずそれを拾い上げて真っ黒な画面をのぞき込みました。
そこには、さっき古道くんのとなりにいたあの男子生徒の顔があり、困惑した顔で画面を見つめていました。
つまり……これは、私……なのでしょうか。
「古道くん」
聞きなれた私の声に、私がハッと顔をあげると……そこにはいつもの私がにこやかに古道くんに笑いかけている光景がありました。
「ちょっと足をひねったみたいだから、2人で保健室に行ってくるね。先生に5限遅れますって伝言をお願いしてもいいかな?」
「あ、うんわかった。2人で大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ、ありがとう」
「じゃ、もう本鈴鳴るし先行ってるから!」
ああ、目の前で自然に会話している古道くんと私の姿を見ている私は一体誰なのでしょうか。
私もそんな風に……そんな風にいつも古道くんと喋れたら。
「行こう。あなたも、手の平すりむいてる」
そう言って目を細め、微笑みを貼り付けてこちらを見る彼女は、ひどく落ち着いていて……とても恐ろしく見える。
「あの、あなた……誰……私……」
「誰って、状況が状況だし、わかってるんでしょ?」
「……」
目の前の「私」はため息を吐いて頭を掻くと、腕を組んで言い放った。
「僕は宇谷 圭。君や寛と同じクラスなのは知ってるでしょ。今、君が入ってるその体の本来の持ち主だ」