「聡介!」


あたし振り向いて叫ぶが、聡介の姿が見えない。


他の生徒たちが団子状態になっているだけだ。


もし、あの中心に聡介がいたら……?


背中がスッと冷たくなって行くのを感じる。


立ち止まろうにも、一が止まらなければ止まれない。


「一先輩、立ち止まってください!」


必死に声をかけるが、一は気づかずに走り続ける。


どうにか手を振り払おうとしても、その力は強すぎてあたしには無理だった。


もう1度振り向くと生徒たちがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「いたぞ! 北上恵美だ!」


「捕まえろ!」


え、あたし……!?


名前を呼ばれたことに驚き、思考が真っ白になってしまう。


「知らないのか? 男子たちはこぞって君のことを狙ってるんだ」


走りながら一が言う。


「どうして?」


「自覚なしか……」


呟いた一が微かに笑った気がした。


階段を駆け下りて廊下を曲がったとき、複数の生徒たちと視線がぶつかった。


休憩時間をただ楽しんでいた生徒もいたと思うけれど、その視線は確実にあたしたちを見ていた。


「まじかよ、いたぞ!」


そこで男子生徒が叫ぶ。


後ろから追いかけてくる足音も聞こえてきている。