一が大きく息を吸い込み、再び歩き出した。


中腰になり、しっかりと足を踏み出して一歩ずつ前に進んで行く。


授業をしている教室の前に差し掛かると、あたしたちは腹ばいになり、ほふく前進をするようにして前に進んだ。


白い体操着はすぐに汚れてしまったが、仕方ない。


こんなときにスカートじゃなくてよかったと安堵したくらいだ。


どうにか移動教室の空間を抜け、最も南にある食堂に到着した。


一が食堂のドアを開けた瞬間、いい香りが鼻腔をくすぐる。


しかし、残念ながら今食欲はなかった。


学校へ来てからずっと続いている緊張状態のせいで、食欲なんてとっくに失われていた。


3人で入って行くと奥で調理中だった年配の女性が気が付いてこちらへ近づいてきた。


「ちょっと君たち、今はまだ授業中じゃないの?」


そう言いながら歩いてきたのだけれど、あたしたちの顔を見た瞬間表情が硬直したのがわかった。


3人とも頬には絆創膏を貼っているけれど、もう顔までバレてしまっているようだ。


女性の反応に一瞬身構えて立ち止まる。


しかし次の瞬間女性は肩の力を抜いて「なにが欲しいの?」と聞いてきた。


その声色は真剣だ。


「あの、人数分の食べ物と飲み物を」


聡介がおずおずと申し出ると、女性は「待ってて」と短く言うと奥へと引っ込んで行った。