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それから30分後。


制服姿に着替えたあたしはお父さんの運転する車の後部座席に乗っていた。


助手席にはお母さんが乗っている。


2人ともさっきから前方を睨みつけていて、一言も言葉を発しない。


あたしもなにも言えなかった。


ただ、流れていく景色を見つめる。


昨日はあれだけ曇っていたのに、それでもあたしが見ている世界には色があった。


でも、今日は違う。


いい天気なのにすべてが曇っているように見えた。


道行く人々はすべて自分を敵視しているように見える。


誰かがこちらを見ていたら自分が見られているのでないかと思い、身をかがめた。


まるで犯罪者にでもなったような気分だ。


「もう少しで街から出られるからな」


ずっと黙っていたお父さんの声にあたしは顔を上げた。


「どこへ行くの?」


「どこか遠くだ。とにかくもっと人が沢山いる場所」


「そんなところに行ったらもっと狙われちゃう!」


後ろから慌てて言うと、お母さんが振り向いた。


「人ごみに隠れるのも手だと思うのよ。頬の数字はそんなに大きなものじゃないから、絆創膏で隠せば、きっと恵美が商品だとは気がつかれないから」


早口に説明するお母さんに、不安は増す一方だ。


本当にそんなにうまくいくだろうか。


この前まで商品だった子たちの半分は死んでしまった。