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あれは2年生に上がってすぐのことだった。


D組になる前から、あたしたちは愛子の存在を知っていた。


同じ中学校出身だったのだ。


中学時代の愛子はとても大人しく目立たない存在だった。


高校に入学してからもそれは変わらなかった。


決して誰かをイジメるようなタイプじゃない。


むしろ、美紀みたいな子に目をつけられるタイプだったのだ。


そして、それは当たっていた。


1年生の頃から愛子は美紀にイジメられ続けていたのだ。


2年生になってから同じクラスになったあたしたちはそのことを知らなかった。


だから愛子が同じクラスだとわかったとき、普通に話しかけていたのだ。


『愛子おはよう! 同じクラスなんて偶然だね』


下駄箱の前に張り出されていたクラス分けの紙を見て、すでに愛子の名前は見つけていた。


『お、おはよう』


愛子はおどおどとした様子で言い、やけに周囲を気にしていた。


今思えば、美紀の姿を探していたんだと思う。


イジメられっ子の愛子があたしたちと仲良く会話をしていたら、それをネタに更にイジメられるかもしれないから、


『どうしたの愛子、顔色が悪いよ?』


夢が心配そうに声をかける。


それでも愛子は『うん』と小さな声で返事をするだけだった。