「ほんと、そのくらい怖がってるってことだよ」


20分ほど歩いたあたりで急に愛子の歩調がゆっくりになった。


周囲は閑静な住宅街だ。


きっと愛子の家はこの辺になるのだろう。


愛子が道路を右に曲がる。


少し遅れてあたしと夢も道を曲がった。


その時だった。


歩道をふさぐようにして黒い車が停車しているのが見えた。


愛子はその車をどけるため、歩道側によって歩き出した。


その瞬間、車の後ろのドアが開かれていた。


愛子が驚いて足を止める。


その隙を見計らったかのように車の中から腕が伸びてきて、愛子の体を引きずりこんでしまったのだ。


車はすぐに発進し、後に残ったのは静寂だけだった。