イミテーション・ハネムーン





「今頃、大騒ぎだろうな。」

圭吾さんは、夜汽車の中でそう言って笑った。



「圭吾さん…大丈夫なの?」

「残念ながら、今回のギャラはもらえない。
それどころか、会社も間違いなくクビだね。」

「そ、そんな……」

罪悪感が私の胸を覆い尽した。
私のせいで、圭吾さんは多大な被害を被ったのだから…



「そんな顔しないでよ。
僕は後悔なんてしていない。
……君が思い直してくれたら、僕はそれだけで嬉しいんだから…」

信じられない想いだった。
こんなにも他人のことを親身になって考えてくれる人がいたなんて…



「圭吾さん…ありがとう…
私…もう一度頑張ってみる…あ……」

「どうかしたの?」

私はその時になって思い出した。
私にはもう帰る家がないことを…
しかも、お金もない。



「じゃあ、うちに来れば良いよ。」

状況を打ち明けたら、圭吾さんは軽い調子でそう言った。



「ま、まさか…」

「心配も遠慮もいらないよ。こう見えても僕はけっこう紳士だから。」

そう言って、圭吾さんは片目を瞑って、ふふふと笑った。



(本当に良いのかな?)

戸惑う気持ちはあるけれど、今頼れるのはこの人しかいない。



「よ、よろしくお願いします。」

頭を下げた私に、圭吾さんは笑顔で頷いてくれた。



あんなに恐れてた五月八日ももう全然怖くない。
だって、圭吾さんがいてくれるんだもの。



この旅は偽りのハネムーンだったけど…



もしかしたら…いつか、本当のハネムーンに行けるかもしれない…
今度は本物の『夫』となったこの人と……



そんな勝手な想像に、私の胸は幸せで満たされた。