自分に近づいてくる女の子たちが甘えるように褒めてくる言葉を、彼は全て本気として受け取らずに流してきたのだろう。
だから褒められても、あまり自分のことのように受け取れないのかもしれない。
「でもご飯は本当に美味しかった。お嫁さんに欲しい」
「御上さんが俺のお嫁さんになってくれたら、毎日作るよ」
甘ったるい笑みで微笑まれて、毎日美味しいご飯付きか……と考えているとリビングから「イチャイチャすんな」とまほこちゃんの声が飛んでくる。
「御上さんはお客様なんだから、もう後片付けはいいよ。まほこのところ行って」
私の頭を軽く撫でる春日井くんに、ああ……お兄ちゃんなんだなと感じた。
私の知らなかった彼を、今見せてもらっているような気がする。
「ありがとう」
お言葉に甘えてキッチンを出ようとすると、後ろから腕を掴まれた。
「ねえ、夜……ふたりで会おう」
それだけ囁かれて、腕を離される。
キョトンとしている私に対し、春日井くんは先ほどと変わらない様子で片付けをしていて、自分の周りだけ時間が止まったみたいだった。



