消えそうなくらい掠れた声が届き、私は心臓が太鼓にでもなったかのように鼓動が暴れだす。
少し体を離して、見上げると春日井くんが切なげに見つめている。耳も赤い。お預けを食らっている子犬のようだ。
「ぅえ、あ、うん」
今私ものすごく間抜けな声が出た。
あまりの春日井くんの破壊力に言語機能がバグを起こしている。
「触れるだけでいいから」
「……触れるだけ?」
「うん、触れるだけ」
そう言って、唇が重ねられる。
本当に触れるだけ、それだけだった。
でも手は背中に回っていて、壊れ物でも扱うように優しく抱きしめられて、首筋に春日井くんの顔が埋められる。
「……っ」
かかった吐息の熱さに身震いする。興奮しているのは私の方かもしれない。
自分の破廉恥さに困惑していると、春日井くんが離れていく。
名残惜しい……そんな私の煩悩を滅却するように後頭部に衝撃が走る。
「あでっ」
「大丈夫? あ……やべ」
春日井くんが顔を引きつらせて、両手を上げながら私から一歩離れる。
「なんで綺梨がここにいんの」
数ミリだけ開いた部屋のドアの隙間から、地を這うようなまほこちゃんの低い声が聞こえてきた。
「ま、まほこちゃ……これは、その、違うの。いや、違くない! 違くないけど!」
浮気現場を見られてあたふたしている人の心境が憑依した気分になる。
言い訳にならない言葉を並べながら慌てていると、ドア越しに長い長いため息が聞こえてきた。
「私の友達を部屋に連れ込んで……なにしてんだよ、兄貴」
こうして、私が春日井くんの部屋にいたことが、まほこちゃんに知られてしまった。



