「え、でもまほこちゃんが」
「お願い、少しでいいから」
必死に懇願されて、とりあえず頷いてみる。なにか用があるのかもしれない。
じっと待っていると、春日井くんが薄く笑う。
「今日は御上さんからキスしてくれないの?」
昨日の私の暴走したキスの話をされているのがわかり、だらしなく口を開いてしまう。
「い、今、キス待ちだったの」
「え、」
「もっとお強請りしてくれないと、気づけないよ!」
「え、ごめん」
キス待ちなら、してほしいってぎこちなく言ってほしい! できれば目を合わさずに照れて!
そう訴えてながら顔を近づけると、春日井くんが急に一歩後ろへ下がってしまう。
「どうしたの?」
「いや……なんか急に実感して」
「実感?」
「俺の部屋に御上さんがいるんだなって」
逸らされた視線、照れたような表情。下からのアングル。とてもいい。私は瞬きをするのが惜しくなる。
「それに……御上さんがいつもと違って見える」
「? どこらへんが?」
「私服だし。あと、いい匂いするし」
確かに私は今日ワンピースを着ていて、母からもらったジャスミンの香水をつけている。
だけど私だって春日井くんもいつもと違って見えるのだ。
「ねえ、春日井くん」
「ん?」
黒いパーカーが気になって仕方ない。
「ちょっと匂い嗅いでいい?」
「はっ? なんっ、なんで?」
「嗅いでみたくて」



