「あ、学校一のチャラ男なんだっけ?」

「そんな勲章も持っていたね。今は遊んでないみたいだけど」

遊び人だったはずの彼は最近誘いを断っているらしいし、私の知っている限りでは浮気はしていなさそうだ。


「綺梨、気をつけなよ。流されて関係もたないように」

「大丈夫、私から迫ってる!」

「待て待て、落ち着いて。相手は手練れでしょ」

「心にウブがいるよ」

「歌うように言うな。流石の私にも、わけがわからん」

私たちが歩いていると、男子高校生たちが前方からやってくる。
数人がエナメルバッグを肩からかけているので、部活の後なのかもしれない。


わちゃわちゃと騒ぎながら盛り上がっている彼らを、脳裏にしっかりとインプットして横切っていく。



数秒後、私とまほこちゃんはおもむろに口を開いた。


「ウォッチング」

「ウブ・ノーウブ・ウブ・ウブ」

素早く答えたまほこちゃんに私は足を止めて仰反る。


「え、一番目の人、ウブ!? 第二ボタン開いてるのに!?」

「綺梨、第二ボタンは経験者の証じゃない」

付き合ったことのない未経験男子は第二ボタンを開けない。そう思い込んでいた……違うのか。私の知識はまだまだ浅いらしい。



「で、でも茶髪で制服着崩してるし、絶対女の子慣れしてるよ!」

「はあ、それだけで判断するのは早い。まだ垢抜けきれていないウブ臭がわからない?」

垢抜けきれないウブ臭とはどんな匂いなの!?
緊張して背筋を伸ばし、ぐっと掌を握りしめて聞く体制に入る。


「目の前にいた時は見もしなかったくせに、通り過ぎるとき私たちのこと、めっっっっっちゃ見てた。しかも横目で」

「っ! 私、顔から下見てたから気づかなかった!」

「ちなみに前方にいたとき吟味するように眺めていた二番目の男とは反応が違う!」


つまり付き合ったことのないウブ男子は興味ないフリをしてるのに実は興味津々で、女の子慣れしていそうな男子は興味あることを隠さずに普通に見てた……スケベな違いだ。



「さすが、ウブマエストロマホコ」

「変な名前で呼ぶな」

ものすっごい睨まれて怒られた。