「なんで、キスしたの」

その問いに、私は答えられなかった。


「こんなの俺の心臓がもたない」

照れながらされた発言。それは自然とエコーがかかりながら甘く私に響く。

彼は経験者なはずなのに、どうしてここまで私の心をくすぐるのだろう。



「ごめん、奪いたくて」

「……う、奪いたいって、なんで?」

「春日井くんの初めてのキスの記憶の上書き」

渋々自白する。少女漫画のキザヒーロー風にかっこつけたため、引かれるかもしれない。どうしよう、冗談ですとか言ったら更に引かれそう。……本気だけど。



「なっ、なに言ってんの、御上さん」

引いているというよりも動揺しているみたいで、とりあえず安堵する。


「はぁ……全部奪いなおしちゃいたいな。春日井くんの初めて」

「なっ」

手を繋ぐのも、キスも、抱き合うのも、すべての初めてを一度なかったことにしてしまいたい。

でも目の前で口をパクパクしている春日井くんは異性慣れしていなさそうに見えてウブ男子っぽい。


「てか、いろいろやばいから俺の上から降りて!」

「え、でも私この体制結構好きなんだ」

「……っ、ダメだって本当!」

春日井くんの膝の上に乗って抱きつくのは落ち着くのに、春日井くんは気に入らないらしい。


「じゃあ、もう少し座ってる」

「……拷問だ」

「え、私のこと嫌いになったの?」


膝の上にいることがそんなにやだなんて、かなりショックだ。



「……好きだからに決まってんじゃん、本当さぁ、御上さんさぁ……もう……あー……」


苦い顔になったり照れたり困ったりしている春日井くんを眺めながら、手をぎゅっと握ってみる。



不思議と先ほどまでの奪いたい衝動がおさまっていた。


たぶんあれは、独占欲だったのかもしれない。