「だからさ、感謝してるんだ」
「? その誘拐犯に?」
「うん、その誘拐犯の子に」
何故か楽しげに笑っている春日井くんは先ほどまでの憂いを帯びた雰囲気が嘘のようだった。少し感傷的になっていたのかもしれない。
それにしても春日井くんも誘拐犯の子に感謝しているなんて変わってる。
「それと部活をやめて自棄になったことは後悔してるんだよね。そのせいで妹に嫌われたし」
「……自棄?」
「うん、ちょっと中二の時にね」
〝中二〟という言葉にバラバラになっていたピースがはまっていく。
サッカー部を辞めた中一の終わり。そして自棄になった中二。
彼が言っていた初めてのときの話。
「わかったよ、私」
「御上さん?」
隣に座る春日井くんをじっと見つめと、色素の薄い瞳が警戒するように私に向けられる。
「春日井くん、グレて初めてをどこかの女子にあげちゃったの?」
「あー」
私から目を逸らし、あははと力なく笑う春日井くんはYESと表情で言っていた。
拳を握り、自分の膝にそれをぽんぽんとして悔しさを訴える。
「捨てるなら私に……っ、初めてを……くっ!」
「歯を食いしばられながら言われてもなぁ」
グレる前の春日井くんにも出会いたかったけれど、グレた春日井くんとも出会いたかった。
たぶんどっちにも良さがある気がして、どちらも見てみたい。
爽やかウブ春日井くんと、グレたウブ春日井くん。……見たい。



