「いろいろと御上さんに教え込んで、俺から離れられないようにしないと」

「……春日井くんも変態だ」

「でもよかったでしょ?」

私も変態だけど、彼もかなりの変態に間違いない。

それとやられっぱなしは悔しい。

余裕な笑みを浮かべている春日井くんのネクタイを引っ張り、体が前屈みになったところで耳元にふぅっと息を吹きかける。


「——っ!?」

慌てて耳を手で覆い、口をパクパクさせている春日井くんの顔は真っ赤だ。

どうやら彼は、不意打ちに弱いらしい。


「き、急にそういうことするのは反則!」

「春日井くんだってするでしょ?」

「けど耳はダメ、俺の耳はダメ」

いいことを知った。
へぇ〜と口元を緩めると、春日井くんが警戒するように私からじりじりと離れていく。


「耳が弱いんだね?」

「っ、ちが」

「じゃあ、試させて!」

「っ絶対やだ!」

変質者のように両手を前に出してにぎにぎとする動作を見せながら、私は逃すまいと詰め寄る。


「逃さない!」

「やだ、逃げる! 先帰る!」

「彼女置いてくなんてクズだ!」

「俺クズだもん!」

音楽室を出て「やだやだ」言いながら必死に逃げる春日井くんと、ノリノリで追いかける私。

そんなひとときが楽しくって、私は久しぶりにたくさん笑った。