「……御上さん?」

「動かないで」

春日井くんの頬に唇をそっと押し当ててみた。



「……っ!?」

ガクッと落ちそうになる春日井くんを繋がっている手で引っ張り上げる。

……手を繋いでいなかったら階段からずり落ちていたのではないだろうか。



「それはずるくない……?」

微かに聞こえてきた声に私は首を傾げる。ほっぺにキスはあまり好きではないらしい。

されたくないことリストを提出してほしい。できれば欲望に任せて嫌がることをしないためにも頭に入れておきたい。



「ごめんね。もうしません」

「え! あ、いや……してください」

男心は難解だ。してもいいらしい。
けれど春日井くんの顔が近いので、変化がわかりやすい。


「春日井くんって肌白いから、赤くなるとわかりやすいね。かわいい」

頬を指先で撫でると、春日井くんは目を見開いて硬直した。そしてみるみると顔が赤くなっていく。


「っ御上さん、近い!」

「? 普通じゃない?」

「もう少し危機感持って! あと俺以外の男子とこの距離感は絶対ダメ。いけません」

せっかく繋いでいた手を離されてしまい、春日井くんが階段を先に下っていった。

置いていくなんて酷い。女慣れしていないウブ男子みたいだ! 今どんな顔してるの!

私は彼を追いかけながら、飛びつくように手を掴む。



「ちょっ」

「なんで離すの! もうちょっとだけ! ほんの数分でいいから! なんなら小指だけでも!」

「やだ、もう恥ずかしいから帰る!」

「なにわがまま言ってるの! 私の初恋ほしいって言ったのに!」

駄々をこねながら手を握ろうとすると、危険生物認定されて手を解かれてしまう。



やっぱり男心は難解だ。
それと、春日井くんは案外厳しい。