「じゃ、またな」

そう言って春日井くんは私の手を引きながら歩き出す。


今、ちょっと胸がぎゅっとなった。
先ほどまで照れていた春日井くんが人前でこんな風に私の手を握るなんて。……ウブを心に飼っているものの、やっぱり手練れだ。


階段を降りながら、春日井くんがぽつりと声を漏らす。


「ごめん」

なにに対してなのかがわからない。


「もしかしてシュチュエーションが変わったこと?」

「……そうじゃなくて、彼女って言っちゃったから」

「? でも彼女でしょう」

「そうだけど、そうじゃないじゃん」

彼女だけど両想いではない。
だけど付き合ったからには、別に隠したいわけではないので私としては問題がないのだ。

でも彼は付き合っていると他人に言ってしまったことを気にしているらしい。



「なら、春日井くん」

階段の途中で立ち止まる。


「指を絡めて」

「えっ?」

「私、指を絡めて手を握ってほしかったの」

今のは握手みたいなものだ。これでは私の欲望に沿っていない。

要求をすると、春日井くんは視線を落としながら「わかった」と言う。
春日井くんの方が下の段にいるから、今は身長差がいつもよりもない。


……これは初々シリーズのシチュエーションでもあった!
階段で身長差が消えて、女の子の方からほっぺにキスをするやつだ。

初々シリーズにはいろんなウブ男子がでてくるのだけど、このキャラの相手役の女の子は特に積極的だったのだ。


私の指の間に、春日井くんの指がゆっくりとまるで隙間を埋めるように絡められていく。



空いている手を春日井くんの頬に伸ばし、顔を近づける。