「仲良くなりたいから、声かけたんだ」

人懐っこい笑顔で言われて、疑いの眼差しを向ける。
女子に近づく常套手段なのかもしれない。油断できない気を抜かないようにしなくては。


「春日井くんになんのメリットがあるの?」

特定の女の子には執着しない。それが彼なのだ。
なのに私と仲良くなりたがる理由がわからない。


「俺と付き合ってほしいなって」

「どこへ?」

「俺の彼女になってほしいってこと」


メンタルが強いのか私の告白かわしには動じずに、すぐさま言い換えた。

……伊達に経験豊富ではないらしい。


それに初めて話したのにすぐに告白ってあまりにも軽薄すぎる。少女漫画でもこんな無理やり展開はなかなか存在しない。


どうせ本気じゃないのだろう。



「貴方とはお付き合いできません」

きっぱりと言うと、最初からわかっていたかのように薄く笑った。

そして彼は私の目の前の席に座り、机の上で頬杖をつく。上目遣いで私を見つめているのを見る限り、おそらく落とすスイッチが入ったらしい。



「やっぱり手強いなぁ、清楚な高嶺の花は」

「それ周囲が勝手に言ってるだけだから」

ため息まじりに告げると、春日井くんが目を細める。彼から放出されている雰囲気は糖分過多になりそうなほど甘ったるい。



「俺のどこがダメ?」

どこがなんて聞かれたことは初めてで、心底驚く。
小説にしおりを挟み、じっとりとした目で彼を見つめる。


派手だけど、外見はかっこいいのだと思う。
正直わりと好みだ。そして女遊びは激しいけれど、性格は優しいらしいとは聞く。



そんな彼と付き合えない理由なんて一つしかないに決まっている。





「私、誰とも付き合ったことない男の子が好きなの」