「声、よく我慢できたね」
「……意地悪」
「いつもここ噛むと声出ちゃうのに、えらいえらい」
わざと私を恥ずかしくさせるようなことを言ってくる春日井くんを睨む。すごく満足げな顔をしている。
「最後のクラスの集まりで、私男子に話があるって言われてるんだから」
「え」
「イケメンだったなぁ」
春日井くんの膝の上から離れると、腰あたりをぎゅっと抱かれて引きとめられる。
「待った! 俺のこと捨てる気!?」
「ふふん」
「なにその返答!」
縋るように必死になっている春日井くんがかわいくって頭を撫でまわしたくなってしまう。
「綺梨ちゃん、綺梨ちゃん」
「なーに」
「指輪! 全部の指に指輪つけよう!」
「それメリケンサックみたいじゃない……?」
さすがに十本の指に指輪をつけるのは嫌だ。愛が重いどころじゃない。
春日井くんは唸りながらも納得してくれたようで「やめとく」と言って、渋々私から離れる。
とってしまったネクタイをきちんと結び直してから、片手を春日井くんに伸ばした。
「最後の下校だし、手でも繋ぎませんか? 春日井くん」
「……うん」
手を繋いで教室を出る。
一緒に過ごした校舎を懐かしみながら、一歩、また一歩と出口へと向かって歩く。
春日井くんとしてはまだ心配らしく、なにかいい案はないかと考えているようだ。
私は手と重ねたまま、春日井くんの腕にぎゅっと抱きついた。
「そんなに心配しなくたって、春日井くん一筋だから大丈夫だよ」
「……綺梨ちゃん」
「だって、私は心にウブが住んでいる春日井くんにしか興味ないから!」
「住んでないし、大きな声でそういうこと言わないで!」
完



