「俺は綺梨ちゃんと出会っちゃったから」

冷えた指先が温かい手に包まれて、ゆるりと絡まる。
心臓が存在を主張するように跳ねて、血液の熱が全身に巡っていく。


「……可愛い子だったって聞いたよ」

少し棘のある言い方をしてしまった。だけど、ちょっとだけ心にモヤがかかってしまって、それがなかなか消えてくれない。


「それに清楚だって」
「んー……そうだったかな」
「……春日井くんの好みだったんじゃないの?」

可愛く縋ってみたいけれど、なにも思い浮かばない。
私のこと好きでいてほしい。よそ見なんてさせたくないと欲ばかりが生まれてしまう。


「綺梨」

初めてそう呼ばれた気がした。
いつもはちゃん付けで、甘やかしてくれるような呼び方だったのに。


「俺には綺梨だけ。……わかって?」

言い聞かせるみたいな口調で、開いているもう片方の手は私の頬に添えられる。

春日井くんの視界に、ずっと私だけが映っていればいいのに。