「春日井くんはなにも思わないの?」
「俺は……そりゃしたいとか思うけど、でもこうして綺梨ちゃんと少しでも会えれば嬉しいよ」

照れくさそうに笑いながら、春日井くんが言葉を続ける。


「手を繋いだり話せたりするだけで、幸せだし」

私は開いた口が塞がらなかった。
春日井一樹という人間は、とんでもない純情だった。


>未経験者じゃないのに、純情だった。<

純度高めのウブな心を未だに同居しているのがわかり安堵しつつ、邪な私の変態心を反省したい。


「ごめんね、春日井くん。今日の私は変態だった!」
「あ、うん。それはいつもだよ」

……春日井くん、私のこと好きであってるよね?と時々聞きたくなるくらい変態と言ってくる気がする。

せめて会える短い時間の中で、なにかイチャイチャできないかと必死に思考して、あることを思いついた。


「そうだ、マフラー交換しない?」
「え、なんで?」
「お互いのマフラーつけてたら、会えなくても一緒にいる感じで頑張れるかなって」
「いいよ。交換しよっか」

私の巻いていたワインレッドのマフラーを春日井くんに渡して、春日井くんの巻いていた黒のマフラーを自分に巻きつける。

今まで春日井くんが巻いていたからか、温もりが残っていてほんのりのオレンジの香りがする。