「初めてなのにキスが上手い人なんていないよね?」
「まあ、それぞれなんじゃない?」
「え、いるの!? 初めてなのにキスが上手い人!」
そんな人が実在している!?
食いつく私にまほこちゃんは冷ややかな視線を向けて、右手の平を見せてくる。
「ストップ。ここ外だし夜の公園だし、声のトーン落として」
まほこちゃんは破天荒なのに案外そういうことは気にするのだ。
ここには私たちしかいないのだから心置きなく話に花を咲かせたいのに蕾を毟られた。
「……なんかあった? それともいつもの理想と妄想?」
そうだ。私の好みを彼女は知っているので、この際打ち明けてしまおう。
ひとりで悶々と悩んでいても仕方ない。
「私ね、キスしたの」
指の腹で唇をなぞる。思い出すと、ちょっとくすぐったい。
「まじ? ついに彼氏できたんだ。おめでとう」
「彼氏はできてないよ」
「え!?」
「でも重要なのはそこじゃないの」
祝福してくれたまほこちゃんの表情が強張る。衝撃を受けるのはまだ早い。
「聞いて驚かないで」
胸の中に抱え込んでいた悩みを、紐解くように唇をわずかに動かして打ち明ける。
「相手はプレイボーイなの」
かつてウブだったという学校一のナンパ男であり、私の理想のウブ男子とは程遠い存在。
「は? それって遊ばれたってこと?」
「違うの、最も重要な点が間違ってる!」
「え、なにが最も重要なの」
「私の理想は、ぎこちないキスで顔が真っ赤になっちゃう初々しい男の子なの!!」
だというのに、春日井くんはキスが上手いし! 余裕な表情!
あれはあれでよかったけども!!