「たぶん、私は人とずれてる」
「知ってる」
即答されてしまった。時々春日井くんに、好きな相手は私で合ってるのかと聞きたくなる。
「恋とかしたことなくて、小説とか漫画の中でしか知らない」
「うん」
「だから、その……恋を教えて」
端っこに押しやった恥が戻ってくる。
自分でも妙なことを言っている自覚はあるものの、春日井くんには正直に言わないと離れていってしまうような不安を感じていた。
「……その相手、俺でいいの?」
「春日井くんがいい」
他の男子とは、キスとか手を繋ぐとかそういう類のことはできそうにない。多分私、春日井くんだからこの距離でいられる。
「ねえ……それもうさぁ……俺のこと好きじゃん」
「……そうなのかな?」
まほこちゃんにもさっき言われたように、私は春日井くんのことが好きなのだろうか。
「わからないなら、これから自覚させてあげる」
「え、どうやって?」
「俺から離れられなくする」
春日井くんの手が、私の手をぎゅっと握りしめる。
もう片方の手は頬を包み込むように触れてきて伝わってきた他人の熱にびくりと体が反応してしまい、顔を背けた。心臓が痛いくらい大きく跳ねている。
春日井くんが私の首元に顔を寄せると小さく笑った。
「俺ん家のシャンプーの匂いがする」
嬉しそうな声で言われて、猛烈に恥ずかしくなる。
この近い距離よりも、彼と同じ匂いを纏っていることの方がイケナイことのように思えてしまう。



