『ずっと前から好きだ。』
なぜこのタイミングだったのかは、俺にも分からない。ただ、今言わないと一生言えない気がしたのだ。

「…え?」

「ずっと前から華月が怖がってるのは知ってる。だからずっと言わないつもりだった……」

華月は涙を流した。あれ以来、ほとんど涙を流していない華月が泣いた。

「なんで言っちゃったの……。私も気づいてたよ、私たちのこの関係は長く続かないんだろうってね。

知ってたよ、知ってたけど……口にしたらそれこそ本当に終わっちゃうじゃん。」
次々涙が溢れてくるけれど、表情は一切変わらない。
きっと感情が表に出てきていない、俺じゃ無理だったのか…

「……華月は、何をそんなに怖がってるんだ?」

確かに、俺たちの立場的に自由に恋愛はできない。俺と華月の結婚は決まっているし、俺以外と恋愛する気など華月にはないだろう。

それでも俺と恋愛する気はないのはなぜなんだ?何がそんなに怖いのか?

「私は零夜のことが大好き。零夜も私のことが大好き。人間としても、異性としても。

お互いがお互いを大切に思ってるのは知ってる。だからこそ零夜とにかく恋愛すれば上手くいくんだろうとも思う。結婚も決まってるしね。

だけどね、恋したら終わりなんだよ。

いつか絶対お互いの嫌なところが見えてくる。
今は総長同士、親友同士、みたいな関係だからいいよ、だけどこれが夫婦とかカップルになったら話は違う。

異性として見ちゃったら嫌なところがいつか絶対見えてくる。

そしたらそれはもう私たちだけの問題じゃない。

組全体の問題、それだけじゃなくて会社の問題、下手したら地域の暴力団全体の問題になる。

そしたら私たちはどうしたらいい?

嫌になったから別れます、が通用しない。そんな中私たちは普通に恋愛出来ると思う?

だから私は絶対恋愛しないって決めてるの。」

華月の発言は思ったよりも重かった、心の奥底に響くようだった。

「……華月は俺を信じられないってことか?」

「違う!零夜のことは誰よりも信頼してるし誰よりも愛してる。

だけど、絶対恋愛しちゃダメなの。

一番大切だからこそ、失うのが何よりも怖い。

もしかしたらなんの問題もないまま、一生幸せに暮らせるかもしれない。私だってそう思いたい。


だけど、あの日お母さんは死んだ。あんな風に零夜に死なれたら私は耐えられない。

そんなことは無いと信じたいけど、総長として、親友として死んでしまうなら耐えられると思う。

だけど、好きな人が死ぬのはきっと私は耐えられない。だからごめん、どうしても無理。」

共依存状態の俺達にはあまりにも重く響く答えだった。

「……いつまででも待ってるから。」
俺はそれだけ言い残して華月の部屋を去った。