人間誰しも、死を覚悟する時というものがあると思う。

そして、俺はそれが今だと思っている。
兄さんが亡くなる数日前にも感じたこの気配。

きっと今度は俺の番だ。
俺は日本で一番強いって言っても良いだろう。
それでも、武器を使われてしまったら、兄さんのように殺されてもおかしくない。

死にたくはない。
華月を残して死ぬ事は出来ない、絶対に。
それでも、華月には想いを伝えておきたい。

死なないという保証はどこにもないから。

「…れい…や…。いま、なんじ？」
半目で俺に問いかける華月。

「ん？九時半だけど？」

「……え！もうそんな時間？？」

いきなり飛び起きる華月。
寝相が悪かったのか、パジャマの肩がずり落ちている。

「もう少し寝てたら？」
目の下には軽くクマもあるようだし、疲れが溜まっているようにしか見えない。

「大丈夫…。訓練しなきゃ。」

「頑張るのもいいけど、休まないと倒れるぞ？大丈夫か？」

「大丈夫。私は零夜がいれば大丈夫だから。」
それってもうプロボーズにしか聞こえないんだけど、と言おうとしたけどやめておこう。

「そうか？じゃあ頑張るか。俺も訓練しないとな。」

「…うん、そろそろだもんね。本当に体を使う機会が多くて疲れるよ。零夜〜。」
そうして座っている俺の体に抱きついてくる華月。

「…偉いぞ、華月。」

「えへへっ、零夜に褒められちゃった。」

「……華月。」今だ、今しかない。

「…ん？」顔が見えない今のうちに言うしかない。