俺は兄のことが大好きだったし尊敬していた。他のどの兄弟より仲が良かったと思う。

俺にとって兄は最高の遊び相手だったし、お手本でもあった。だからあの日あんな形で再会するとは思わなかった。

兄が旅行に行くと言ったので、母はお金を持たせて送り出した。隣の県への一泊二日の旅行だと聞いている。

次の日俺はお土産を楽しみに待っていた、けれど、兄はいつまで経っても帰ってこなかった。

だんだん母も父も不安な表情になっていったのを俺は覚えている。その時は一瞬が永遠に感じた、だんだん意識が遠のいていく感覚、と言ったらいいだろうか。

とうとう帰ると言われた時間から三時間経っても、兄は帰ってこなかった。
俺は嫌な予感がして流れてくる冷汗を必死にぬぐっていた。

兄は俺との約束を絶対に守ってくれた。
あの日も帰ってきたら一緒にゲームしようと約束していたから、時間をすぎても帰ってこないことが不安で仕方なかった。

連絡がつかずに母は色んなところに電話をかけていたような気がする。あの時はあまりにも緊張していたんだろう、詳しい記憶がない。

そして家にかかってきた電話に父が出た時、顔色が変わった。普段冷静な父の、見たこともない焦った顔はきっと一生忘れられない。

『……瑞希が………意識不明で県立病院に搬送された。』父がそう言った瞬間、母は泣き崩れていた。

病院で見たのは兄の変わり果てた姿。全身血まみれで、顔には包帯が巻かれていた。
何ヶ所かにギブスをつけられ、まるで集団暴行されたかのようだった。

そして俺のその考察が間違っていなかったと知った時、俺は復讐すると覚悟した。



俺には無理。将来のためにならない。犯罪に手を染めるな。

目を覚ました兄に顔向けできないだろう。こんなことを何度も何度も何度も言われた。

でも俺には関係ない。

俺はやり遂げる。犯罪だなんて兄を殺った相手と同じことはしない。
目を覚ました時に何も出来ていない自分の方が情けない。俺はそう心に言い聞かせて喧嘩と勉強を頑張った。

そして、三ヶ月前、逃げるように家を出て暴走族陽影に入った。