「あ、美来じゃん。」そう言われ後ろを振り返ると、制服姿の慎二くんがいた。

「…慎二くん?どうしてこんなところに?」
私のいる丘の方に歩いてくる慎二くん。

「俺?ここは弟との思い出の場所なんだよ。小さい頃はしょっちゅう弟と遊びに来てた。美来は?」私の隣に来ると、手前にある柵に手をかけ、こちらへ微笑んだ。

「私も。よくお兄ちゃんと来た公園なの。それにここの高台から病院が見えるから。」

ここの公園は私とお兄ちゃんの思い出の場所だ。小さい頃お兄ちゃんと二人でこっそりこの公園に出かけては、親に怒られていた記憶がある。

「…そっか。いい公園だよな。ここ。ところで麗龍には馴染めたか?」

「…うーん、まあまあかな。生活スタイルが大きく変わったからなんとも言えない感じ。それにやっぱり不安だよ、この世界で生きるのは。」

集団生活をするのも、毎日体を鍛えるのも私には不慣れな事だ。

「まあそうだよな。俺は陽影の人間だけど、何かあったら遠慮なく相談しろよ。相談に乗るぐらいはできる。

俺は弟が火神にやられたんだ。元から臆病なやつだったから格好の餌食だったんだろうな。

俺が学校に行ってる間にやられてたんだ。俺が気づいた頃には、もう病院で……。

俺は弟が殴られてる間呑気に友達とふざけてたんだよ。自分が許せなかった……。

あれ以来、弟は家の外に出られなくなっちまったんだ、どうしても怖いらしい。

それに俺が復讐のために暴走族に入った、って知られた時は心から拒絶された。

きっと同類になったって嫌悪感を抱かれたんだろうな。その挙句親からは勘当同然の扱い。

もう家に居場所はねぇ。
それでもな、俺は復讐する。絶対に火神を潰す。」

「…慎二くんは悪くない。何も悪くない。

悪いのは弟さんを殺った奴らだよ。

私もお兄ちゃんがやられたの。楽しそうに旅行に行ったのに、帰ってきた時は変わり果てた姿だった。本当はね、復讐のために華月に近づいたんだ。最低でしょ?

そのぐらい憎かった。だから慎二くんの気持ちも分かる。私も勘当されたも同然の扱いを受けてるし、仲間、かもしれないね。」

慎二くんが秘密を、過去を話してくれたから、私もやっと本当の気持ちを話すことが出来た。

初めてできた仲間だと思った、初めて分かり合える仲間ができて気持ちを共有できる友達ができて嬉しかった。

「でも、華月を好きになっちゃったんだろ?華月はそういうやつだよな〜。誰からも尊敬される存在、っていうやつなのかな?」
今まで笑ったところをなかなか見た事のない慎二くんが笑った。

「ふふっ、そうかもしれないね。華月の足引っ張らないように頑張らなきゃ。」

「いつでも訓練付き合うぞ。」
そう言って慎二くんはニコッと笑ってみせる。

慎二くんだってきっと辛いはずなのに、表情に出さずに私を慰めてくれる。

「ありがとう。」今はそれしか言えないけど、いつか恩返しが出来たらいいな。



「おう!じゃあそろそろ帰ろうぜ?もう夕飯の時間だろ。」

「…そうだね、帰ろうか。」

「………あ、あと。今度の抗争、美来は俺が守るから。心配するな。」

振り向きざまにそう言った慎二くんに惚れたのは私だけの秘密。