三年前からボクシングを習い始め、今ではかなり上達したように思う。

もちろんボクシングをこんなことに使ってはいけないことは重々承知だけれど、弱い私にはこれしか方法がない。

これ以外に力をつける方法が分からない。

本気でボクシングに取り組んでいる人には失礼だろう。でも仕方がない。

私はそうして訓練していくうちに、日本で1番の勢力を誇る暴走族が地元にあることを知った。

麗龍と陽影だ。そしてその総長は同級生だという。

それは私にとってチャンスとしか言いようがなかった。
総長に近づいて、麗龍に入れてもらおう。
ずっとそう思っていた。

途中後悔したりもした、なぜなら総長桐ヶ谷華月は想像したよりもはるかに優しい人だったから。


暴走族の総長だなんて、きっとまともな人間はいないと思っていたし、事実そうだからこそ兄は殺られたのだろう。
それでも華月だけは違うと感じた。

入学式の日兄を思い出して泣いていた私に、話しかけてくれたのは華月一人だけ。

初日にして、私は彼女の優しい面を見た。

華月はあまり笑わなかったし、感情を表に出すようなこともほとんどしない。

きっとそれは総長・組長としての威厳を保つためだろうと私は思っている。

それでも毎日彼女と接するうちに彼女の様々な姿を見ることが出来て嬉しかった。

生まれた時から総長になることが決まっていて、結婚相手も親に決められ、小さい頃から血の滲むような努力を重ねてきた華月。

その苦労は凡人の私には計り知れない。

それでも華月は弱音ひとつ吐かない。

華月にとってはそれが当たり前なのかもしれないけれど、到底私にはできないだろう。

こんな不純な動機で華月に近づいたけれど、いつしか本当に大切な人になっていた。

だからこそ、麗龍に入りたいだなんて簡単に言えなかったけれど、気持ちは本物だ。

やっと華月に姫として迎え入れると言われた時、私は屋敷に招待された。

本当はとても怖かった。

暴走族だなんていいイメージはひとつない。
そんな裏の世界に私は身を置く事になる。

もしかしたら一生そうかもしれない。だから怖かった、それでも兄のためならと思って行動出来た。

そして屋敷に向かい入れられた時、私はその心配が杞憂であるとわかった。

総長の華月はもちろん、華月の弟の真翔くんは本当に温かくて優しい人だった。

真翔くんは髪を青く染めていて、見た目は怖い。でも実はとても気が利いて人のためを思って行動できる人だと知った。

広翔さんは常に冷静で、合理的な判断ができる人という印象がある。
見た目も一番普通で、話しかけやすい雰囲気だと私は思う。

美波さんが実はお医者さんと知った時、私はとても驚いたけれど、優しくて落ち着いている美波さんにぴったりの仕事だと思った。

紫色のメッシュがはいった艶々の髪で、スタイルも抜群にいい美波さんは誰もが振り返る美人さんだ。


健二くんは体格と目線からとても怖い人だと思われがちだが、実は照れ屋で可愛い面もあると知って、なんだか親近感が湧いた。

不安しかないこれからの生活だったけれど、なんだか上手く行きそうな気がしている。