「お!飯田じゃん!」廊下の途中で、クラスの飯田に会った。きっと今、風呂から帰ってきたとこだろう。

「…月城くん…と桐ヶ谷さん!」

「…健人今お風呂上がり?」
華月はさっきまでとは打って変わって元気そうにする。なんだよ、なんか妬ける。

「うん、桐ヶ谷さんに言われた通り、髪軽く染めてみたんだけどどう?」

確かに、飯田の髪色が明るくなっている。校則ギリギリのラインだろうけど、なかなかかっこいい。それにピアスもしている。

「かっこいい!いいと思うよ!そのピアスも似合ってる。明日学校楽しみだね、生まれ変わった健人見て皆どんな反応するんだろう?」

この三連休でだいぶ垢抜けた飯田。
これでクラスの人気者になりそうだ。

「そう?なら良かった。あ、あと桐ヶ谷さんじゃなくて、名前で呼んでいいかな?華月って呼ばれるのは嫌?」

「嫌なわけないでしょ、是非そう呼んで!ついでに零夜も呼び捨てで呼んじゃえ!」
俺はついでかよ。

「月城くん、いい?」
何なんだよこいつ、無駄にイケメンなくせにこんなに自己肯定感が低いなんて…

華月が飯田…いや健人に熱く語りかけるのもこのせいか…

「いちいち許可貰うほどの事じゃねぇだろ。もっと自信持てよ健人。あと、なんかあったら俺を頼れ。」

華月を呼び捨てで呼ぶのがなんか気に入らなくて、少しかっこつけたのは俺だけの秘密。

「ありがとう!零夜。じゃあ俺カフェ行って湯上りの牛乳飲んでくるから、また明日!」

湯上りに牛乳って…ここは銭湯じゃねぇんだけど、と突っ込みたくなったけど、言わないでおこう。

「……健人、一人称俺になってたね…嬉しい。」華月は本当に幸せそうに笑った。

こうやって人の幸せを自分の幸せのように喜べる華月。

そういうところも大好きだ。

「あぁ、明日のクラスの奴らの反応が楽しみだな。俺も気付かなかったけど、健人ってかなりのイケメンだよな?」

正直華月に気にいられている健人のことは好きではないが、健人に酷いことを言っていたやつの驚いた顔を見るのは楽しみでしかない。

「だよね?私思ってたんだよね…飯田くんかっこいいのに前髪長すぎだし、眼鏡は顔にあってないし、制服はダボダボすぎるし…って。

だからやっと健人の魅力が輝く時が来て嬉しいよ!」


華月は俺が思ってるよりもずっと人のことを見てるんだよな…
俺ももっと人に気を配れる人間になりたいと思った。

ーピッピッピッピッー華月が暗証番号を入力する。

「華月って部屋の番号ずっと俺の誕生日だよな?」

「え!?あ、まあ、そうだけど?それがなにか…」

「いや、嬉しいなって思って、俺愛されてるわー。」

「…別に変えるのが面倒なだけだけど。調子乗らないで。」

ちょっとふざけただけなのに、いつもの冷静な華月のツッコミが飛んできた。
でも調子が戻ってきたようで俺は嬉しい。

「…それと、着替えるからあっち向いて…。」

「華月、お前にも恥じらいというものがあったのか…」
普段は俺の気も知らないで平気で着替える華月だから、予想外のことに俺は驚きを隠せない。


「…バカじゃないの。私にだって恥ずかしいって感情はあるけど…」

「この間制服は俺の前で着替えてたのに?」

「…っ!?それとこれは違うの!」

「ふーん?まあいいや、早く着替えろよ、もう俺眠い。」

「はい、着替え終わったよ。」

少々の間の後華月が答える。振り返ると見たことのないパジャマを着ている華月がいる。

「パジャマ新しくした?」普通にそう聞いただけなのに、
「……うん。」なんて恥ずかしそうに言われたら、こっちまで照れてしまう。

「寝るか?」気づいたらもう十一時半だ。寝るのにはちょうどいい頃だろう。

俺はベットの奥の方に腰掛け、布団をめくる。そこに華月がやってきて隣に座った。真っ暗にするのは嫌なのか、部屋には間接照明だけが灯っている。

「零夜の隣ってやっぱり落ち着くな〜。零夜の隣で寝るの好き。なんならもうずっと零夜の隣で寝てもいい。」こっちを見ながら笑って話しかけてくる華月。可愛い。

「今度は俺の部屋来るか?何気に俺の部屋来たことなくね?」

俺たち陽影メンバーはしょっちゅう麗龍の屋敷に来るのだが、麗龍メンバーが陽影の屋敷に来ることはほとんどない。

それはおそらく、麗龍が格上という暗黙の了解があるからだろう。

事実、先に結成されたのは麗龍組だ。

「確かにそうだね、今度みんなで陽影の屋敷に行くことにする!あとね、私決めたんだけど…」

「…ん?」

「私生徒会長になる。そして、青竜戦に備える。私ずっとずっと前から作戦を立ててるの。」

「そうか。華月がそう決めたなら俺は全力で応援する。」

「…零夜、大好き。おやすみ。」
この時の大好きという言葉にどんな意味があったのか俺は知らない。

単に同志として言っただけかもしれない。
それでも俺は華月の言動一つ一つにドキドキしていた。

きっと華月も気づいている。

俺たちのこの関係は長く続かない。俺たちの関係は変わり始めている。