一限のために、一旦更衣室に移動して着替え始める女子たち。
私は胸にタトゥーが入っているからみんなと一緒には着替えられない。だからいつもトイレで着替えているんだ。

着替え終えてみんなで柔道場へ向かったが、既に男子は到着していた。

『全員揃ったか?お前ら、授業始めるぞ。まずペアになれ、ペアになったとこから座ってけ。』
体育の先生の指示に従ってみんなが仲良い子とペアを組んでいく。

でも私は知っている。このクラスで体育をやると、女子と男子が1人ずつ余ることを。そして余るのは大抵私と零夜だ。

「じゃあまた俺たちペアだな?ちょうど初心者とは組めない良かったかもな?」
そうだ、私たち有段者は初心者と手合わせすることは控えるべきだ。武道の有段者が人を傷付けたら、刑が重くなる。そんな法律があるぐらい危険なのだ。

『ん?月城と桐ヶ谷は余ったのか?2人でやれるか?先生とやってもいいんだぞ?』

「先生が華月と組みたいだけだろ、気持ち悪いなあのジジイ。」
零夜は珍しく授業中に毒を吐いていた。

「まあまあ、あんなやつのことは気にせずに、手合わせしようよ。」

「あ、ところでなんで飯田がいじめられてたか分かったぞ。あいつの両親が営んでる菓子店が、なにかの理由で経営が立ち行かなくなったらしい。家賃も払えず、それで水道が止まった。飯田は風呂に入れず、あの状態って訳。」
この数十分の間にこれほどの情報を集めてくるなんて、どのソースから入手した情報なのだろうか。

「なるほど、わかった。」
この授業が終わったら家に連絡しよう、きっとすぐに手配してくれるはずだ。

「華月、また人助けするつもりだな?本当に優しいんだからお前は…」

「ん?どうでもいいから早く始めよう?今回は手加減なしで良いからね。私鍛えたんだから。」

以前零夜に負けたのが悔しかった私はこの日のために鍛え抜いた。どうせもう隠せない、黒帯の実力を存分に発揮しよう。

『なぁ、あんな大男の月城とペア組むなんて可哀想じゃね?』

『零夜くんと組んで、怖い〜!とか言ってぶりっ子するんでしょ、きもっ…』

いつもの事だけど、やっぱり少し腹が立った。私は常に舐められる。こんなに努力していてもだ。

「お?今のでスイッチ入ったんじゃねぇの?」
零夜はわかりやすく私を挑発する。これが、私のパフォーマンスをあげることを知っててやってくるんだから、やっぱり零夜はいい人だ。

『始め!』そこにいた涼介の合図で試合は始まった。