「そうやっていっつもいっつも…私ずっとパンケーキの日心待ちにしてたのにさ?忘れてた自分も悪いけど、だけど食べられないって……残ってたのお茶漬けしかないってどういうこと!?」

「何ひとりでブツブツ喋ってるんだよ、華月。」

家の門の前で零夜を待っていたらこの文句が本人に聞こえてしまったみたいだ。まあ聞かれても構わない。

「別になんでもないですよ〜。早く行こ、今日英単語の小テストだよ。」

零夜が門を閉めるや否や歩き出した、今日は急がないと遅刻かもしれない。

「…あ、やべ。忘れてたわ。まあいっか。」
そう言っているけれど、零夜は対策する気は全くないだろう。

「…零夜ってテストのことすぐ忘れるよね。これが19歳の余裕?数Ⅲまで履修済みって強すぎでしょ〜。」
さすがの私も数Ⅲは予習済みとはいえ、きちんとしているとは言い難い。

「…日本語、英語、フランス語はもちろんのこと、韓国語、中国語、スペイン語、ロシア語、アラビア語まで話せるお前には言われたくない台詞だな。」確かに私は言語能力に長けているけれど、使いどころはあんまりない。

「…零夜のおばあちゃんってロシア人だよね?零夜はロシア語喋れないの?」

「…あのなぁ、ばあちゃんがロシア人だからって誰もがロシア語喋れると思うなよ?聞き取れても喋るのは無理だわ。」
どうやら零夜は呆れ顔だ。

多分私は文系だ、暗記や言語に強い私は、小さい頃からの学習で10ヶ国語程は喋れる。

とはいえ読み書きできるのは日本語、英語、フランス語、韓国語ぐらいだ。

対して零夜は理系だからとにかく数学に強い。

私も数学が出来たら良かったのにとは常々思っている。数学が出来たらかっこよく見えるし、何より役に立つ。

「そういうもんなの?よく分からないや。
あのね、今更だけど私零夜の目の色すごく好きなの。緑っぽい茶色っぽい色ですごく素敵。零夜の目ならいつまででも見てられるよ。」

朝日に照らされた零夜の目は一段と輝いてみえる。突然こんなことを言うなんて照れくさいけれど、ずっと前から思っていたことだ。

異性として意識したことは無いとはいえ、零夜のことはかっこいい男の人だとは思う。

零夜のおばあちゃんがロシア人であるからなのか、零夜の髪は黒色だけれど、ところどころ茶色や金色が混ざっていてとっても綺麗だ。

それに私が大好きなのは零夜の目の色だ。茶色と緑が混ざったような色で、透き通ったその瞳はいつまででも眺めていられるほどに綺麗。

それに加えてすべすべの白い肌。手入れしないであれだなんて羨ましい限りだ。

身長も高いし顔も良くて優しい、女の子がほっておかないのも納得。

「どうぞご勝手に。」そう言いながら零夜は私の髪を撫でる。今日は珍しく髪を下ろしてみたんだ。

「俺は華月の髪の色が好き。全体的に見たら金一色に見えるけど、こうやって近くで見ると、茶色とか金とか混ざってて、1本も同じ色の髪がないんじゃないかって思うよ。不思議だよな。

あとな、その目も大好きだ。水色が透き通ってて吸い込まれそうになる。」零夜はじっと私の顔を覗き込んで微笑む。多分私たちの顔の距離は10センチもないだろう。