『ママぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』
恐らくこの時の華月の悲鳴は屋敷中に響き渡った。

その悲鳴の直後敵は一斉に麗龍の屋敷から立ち去っていった。


龍之介は華月の悲鳴を聞いた瞬間、華月達がいるはずの部屋に走った。

この時の華月の悲鳴は、隣の陽影の屋敷にも聞こえていた。
陽影の組長であり、零夜と朝日の父親である晴風と母親である夏希も麗龍の屋敷へと急いだ。

母親と父親に止められたが、華月の悲鳴を聞いた零夜は急いで麗龍の屋敷へ走った。

龍之介、晴風、夏希、零夜が部屋に着いたのはほぼ同時だった。



真っ暗な部屋で何も見えなかった。
だが、4人は察した。部屋には血の匂いが充満していた。


幼い零夜も気付いてしまった。
この部屋にいるのは、華月とマリアだけではない。きっと自分の兄、朝日もいるということに。

麗龍の強さは陽影が一番よくわかっていた。
だから今回襲撃されても、負けるはずがないと分かっていたからこそ、加勢しなかった。
様子を見るため、朝日を向かわせただけだった。
皆、想像もしていなかったのだ。今回の襲撃の本当の目的を。

この時全員が後悔した。


なぜ、娘と妻だけを置いていったのか。


なぜ、息子だけを向かわせてしまったのか。


なぜ、加勢しなかったのか。

晴風は恐る恐る部屋の電気をつけた。

手前には心臓を一突きされ、息を引き取った朝日の姿があった。
こんな時でさえ、朝日は綺麗な顔をしていた。
夏希はその場で崩れ落ちた。
彼女は最早、息子の姿を見ていられなかった。

それもそうだ、辺りは朝日の血で染まっている。

朝日は最期まで立派な人間だった。
彼は18年という短い時間で生涯を終えた。

そして、その奥には…血塗れの華月と、横たわっているマリアがいた。

龍之介は一目散にマリアと華月の元へ走った。

横たわっているマリアの顔を自分側へと向け、龍之介はマリアの名前を叫ぶ。
しかし、マリアからは一切の応答がなかった。もうマリアは亡くなっていたのだ。

『うわああああああああ。』
龍之介はその場で崩れ落ちた。最愛の妻を失ったのだ。