華月はメッセージを確認するや否や、即座に立ち上がった。その様子を見て零夜も何かを察したらしく、帰りの準備を始めた。

授業中にもかかわらず華月は電話をかけ始める。

「ちょっと桐ヶ谷さん?何をしているの?早く座りなさい?」

世界史の授業担当の教師はそう注意するが、華月は聞く耳を持たない。

「先生、俺ら早退します。」

零夜はあっという間にふたりの荷物をまとめ、華月と一緒に教室を飛び出した。

「あいつらが仕掛けてきやがった。今すぐ早退して蔵に集合だ。今回は手強いぞ、覚悟しておけ。」

「ああ、組員はそれぞれ200人ずつ。陽影にも伝えておけ、陽影には零夜から詳しい情報が入る。

それと美波に薬を用意するよう伝えてくれ。零夜と俺は今から車で蔵に向かう。」

華月は廊下を駆け抜けながら、的確な指示を出していく。

「ああ、麗龍から情報は来ているか?200人蔵に集合させておけ、ああ、そっちにいるメンバーは150人でいい、こっちで50人手配する。

ああ、バイクで頼む。俺らは今から車で向かう。
そうだな、よろしく頼む。」

零夜も華月の鞄を持ちながら廊下を走る。廊下には麗龍と陽影のメンバーと思われる数人が、ふたりと同じように走っている。


正面玄関から出ると、2人は真っ先に職員駐車場に向かう。零夜は鞄から車のキーを取り出す。

その隙に華月は車に乗り込み、早速着替えを始めた。

零夜がエンジンをかけながら華月にこう話しかける。

「今回は時間がかかりそうだな。それに久しぶりに手強い敵だ。怪我人もたくさんでそうだ。」

「ああ、俺もそう思う。だから今度こそ薬の出番だと思うんだ。

零夜、お前は今回裏方に回って隙をついて銃で撃ってくれないか?」

助手席で制服のブラウスを脱ぎながら、華月は答えた。

そんな様子を見た零夜は一瞬戸惑いと緊張の混ざった表情をした後視線を前に戻した。

「了解。これで効率よく警察に引き渡せそうだ。3年訓練した甲斐があったな。」

最後のカーブを曲がったふたりは無事に蔵にたどり着いた。

特攻服に着替え終わった華月は零夜から鞄を受け取る。

それと同時に零夜も服を脱ぎ、歩きながら着替えを始めた。

2人が着く頃には、もう幹部全員が到着していた。
涼介は自転車でここまで来たせいか、かなり汗が滲んでいる。

「皆早いな。」

「さて、今回の作戦を皆に話す。しっかり聞いておけ。」麗龍の蔵に400人を集合させ、華月は話を始める。

「まず、健二、真翔、最前線で敵に突っ込んでもらう。他一班の奴も真翔について行け。前線の判断は真翔に任せる。」

「陽影からは、慎二、愛佳、お前らがいけ。愛佳班の奴らも愛佳について行け。」

「次に麗龍からは美波が敵に薬を打ち込んでいく。皆美波を守れ。美波に指1本触れさせるな。」

「陽影は俺が銃で薬を打ち込む。今回は物陰に隠れているから、俺の姿が見えなくても心配するな。」

「広翔、修也、お前らはここで待機だ。他の組の様子を伺うと共に、帰ってきた俺らの怪我の手当の準備をしておけ。」

「麗龍からは俺と涼介が最後尾だ。俺は総長を倒す。

涼介、今回が初めての抗争だが怯むな。気を強く持て。いざとなったら俺が助けるから心配するな。」

「みんな指示は伝わったな?」零夜は蔵に響き渡る程の声量で叫ぶ。

『おう!』

『死ぬ気で戦え。でも…怪我をするな。無理をするな。無事に帰ってくるぞ!いいな!』

華月は全員に問いかける。その瞳からは誰よりも強い意志が感じられた。

『健二、真翔、慎二、愛佳。行け!』

『おう!』そうして4人と組員達は、夜の闇に消えていった。

その後続々と幹部と組員達が公園に向かう。

氷神は隣県にある暴力団だ。
そのため、決戦の場までは30分で着いた。

夜、ちょうど日が沈むその頃、麗龍と陽影は400人の列を作り、公園へ向かうのだった。