小さい頃から父の仕事の都合で飛行機に乗り慣れている私は、今更怖いだなんて一切思わないけれど、飛行機に乗ったことの無い人たちの中には多少怖がっている人もいるようだ。

そして私の隣に座っている羽鳥は、飛行機に乗るなり震えだしたのだ。

普段はあんなに調子よくふざけているくせに、飛行機は怖いみたい。

そして斜め後ろからは零夜の冷たい視線が送られてきている。
私と隣になれなかったことがよっぽど悔しいんだろう。

羽鳥はさっきから何やらブツブツ呟いていて結構不気味だ。

「…飛行機怖いの?」
隣で震えている羽鳥に声をかける。

「…は、え?いや別に………」
そう強がっているけど、唇が青くなっている。

「…怖いのね。席替わる?」

「…いやもう動き始めてるし……」
確かに離陸場所まで向かうために動き出してはいるけれど、こんな状態の人を放って置く方が心配だ。

「…口開けて。」

「…え、なんで」躊躇いつつも口を開ける羽鳥。

「チョコ。少しは気持ちが落ち着くと思って。あと不安なら私の服掴んでてもいいし。」
そう言いながら私は羽鳥の口の中にチョコを入れる。

「…ありがとう。」

「…あとそれから、もふピヨ好きなんでしょ?
本当は健人と仲良くなりたいんじゃないの?
今までみたいに適当なメンバーとつるんでるだけでいいの?」

「…なんでもふピヨが好きだって……。」

「キーホルダー。健人がつけてるやつと一緒。」

「…なるほど、でも今更絡むの辞めるとか出来ねぇよ。

俺だって飯田のこと悪く言いたいわけじゃねぇけど、そうしないとあいつらに何言われるか分からねぇし。」

「…ふーん。健人に正直に言ったら優しいから許してくれると思うよ。
それにね、あいつらのことは心配しなくていいから。高校生数人ぐらい簡単に潰せるし。」

「…潰っ……!」
ちょっと口が滑ってしまったけれど、社会的にも肉体的にも潰すことは可能だと思う。
まあそんなことはしないけれど。

「…とにかく、このままでいいの?このまま健人に酷いこと言い続けるなら、私もそれなりの対応をとらせてもらうけど。」

「…それは…。」
彼は怖いんだと思う。今まで偽りだとしても友情を築いてきたから。

「…はっきりしなよ。それと、この話してる間にもう離陸したから。」

「…え?ほ、本当だ。地面があんなに遠くに…じゃあわざわざ俺の気を逸らして……。」

「そんなつもりは無い。」
格好つけてみたけど、実は気を逸らす目的もあったりした。でも、健人と羽鳥が仲良くなることを望んでいるのは本心。

「そっか。でもありがとう。空港着いたら話してみるよ。」

「分かった。それとこれはガムね。耳おかしくなってない?耳栓用意しておけばいいのに…」

「あ、さっきから耳がおかしいのはそれか…。またありがとう。」

「うん。」