「華月、お前が頼んだんだろ?らしくねぇな、どうしたんだよ?」
隣の席の零夜は私にこっそりと話しかけてくる。

「…零夜のために決まってるでしょ、エコノミーは狭すぎる。」

「…あっ、そういうことだったのか……。
華月は優しいなぁ。」
今まで人に褒められたことも、甘やかされたこともなかったのに、それを零夜は息を吸うようにやってくるから、やっぱりいつまで経っても慣れない。

「それにしても視線が痛いな〜、まさかあの『Crystal』の会長だとは思えないもんな。」

「晴風さんだって会長でしょ。零夜も同じだって。」


「いやまあそうだけどさ、でもやっぱり陽影は麗龍には及ばないっていうか、桐ヶ谷家には敵わないんだよ。」



「ちょっと!学校で組の話はしないでよ、しかも授業中だよ?誰かに聞かれたら人生終わるよ。」


私との会話で浮かれているのかなんなのか知らないけれど、『Crystal』が暴力団と繋がっているなんて知られたら、会社の経営は傾くだろうし、私はもう学校にはいられなくなる。

それを零夜は分かっているはずなのにこうやって普通に話してくるから、冷や汗をかいてしまった。

まさか同じクラスに次期暴力団組長がいるなんて誰も思いもしないだろう。

この間の抗争でこの学校の中にも何人か族に入っている人がいるというのは知られてしまったが、私の存在は来るべき時が来るまで絶対に隠し通さなければいけない。

「あ、そっか、危なかった。」


「はい、ではね、早速ね班を決めてください、このクラスはね8人ずつ別れてください。」

ちょっとひと班あたりの人数が多い気もするけど、その方がぼっちになる人も減るし、先生も把握しやすくていいのだろう。

みんなが一斉に組みたい人の所へ向かう中、零夜は私のお気に入り耳元で言った。



「俺は前から思ってたのと、修也に調査させたんだけど、沖縄には麗龍の手が届かない族や組がいくつかある。

組は馬鹿じゃねぇから、麗龍と陽影の報復を恐れて、総長と族員少しに対して抗争を挑みはしねぇだろう。

問題なのは麗龍と陽影を知らねぇ馬鹿な族だ。

もちろん華月が一人で倒せるぐらい弱いのは知ってる。
でも俺は傷口塞がるまでは戦えねぇし、何より修学旅行は人の目があるから下手に戦えねぇ。

とするとだいぶ不利な立場になると思うんだ。だから今回は気をつけねぇと、大変なことになるかもしれない。青竜の息のかかった連中がいねぇとも限らない。」


「確かに、私は絶対正体をばらす訳にはいかない。念には念を重ねて、準備する必要があるね。

それにこっちでも総長の不在を嗅ぎつけた連中が仕掛けてくるかもしれない。」