片思いでもいい。

ずっとそう思ってた。


でも、あの朝知ってしまった。

先生と話すときめき・・・

喜び・・・幸せを・・・


あれは、入学して半年くらいたった秋のある朝。

雲一つない青空を見上げながらのんびり登校した。

「こら~!矢沢。お前何ゆっくり歩いてんだ?あと2分でチャイム鳴るぞ~。」

遅刻ギリギリに校門に到着した私に、先生が勢い良く怒鳴る。

先生と授業以外で話すのは2度目だった。


一度目は、廊下で外を眺めてる先生の目があまりにも寂しそうで・・

ふと・・

背中に触れてしまった。


あの頃はまだ、先生は私の存在すら知らなかった頃。

先生は、優しく微笑んでくれたっけ。



今日は2度目のチャンス。

先生・・今日・・名前呼んでくれた。

名前覚えててくれた・・・



ただただ嬉しくて、私はニヤけながら早歩きで坂道を上る。


「何笑ってんだよー!こら、走れ!」


先生は、その大きな手で・・・私の背中を押してくれた。

背中に当たる先生の手の感触は今もはっきり覚えてる。


「は~い・・」


胸のドキドキがバレないよう必死で平常心を装って返事をした。


急な坂道を走り出した私の後ろから聞こえる足音。


振り向くと、先生が追いかけてくれてたんだ。


「おせーよ。上まで競走な。負けたら罰ゲーム!!」


校門から、下足室までの距離。

あっという間の時間だったけど、私にとっては夢のような時間。


軽々と私を追い抜かす先生に追い付きたくて、必死で走った。

この世にまるで・・・2人だけしかいないような、そんな気がしたんだ。



大きなその背中に追いつきたくて、先生の白いジャージ姿を必死で追いかけた。




先生は、何回も振り向いて笑った。

「おっせ~!!歩いてんのか、お前。」



お前・・・


先生が、お前って呼んでくれたんだ。


そんなささいなことに感動しながら、その一瞬一瞬を心に留めておこうって思いながら走った。