「 今朝出た場所に、また
戻るってなんだかなー。」

独り言を云いながら
奥局が呼びに来たのを
合図にマイケルは、

地下獄卒宮に、降りた。
恐ろしく 沈黙の世界が横たわる。

「 スゥカ様の暗殺計画を、
みつかるようにしてよ、
査問をうけてさ、
ここに入れらて、3日。」

筆頭妃候補になって、
他の側妃と共に
妃教育が始まった 大公スゥカの
暗殺計画の発覚。

未遂とは言え
事は王領都にいる大公にも
耳に入り

裁判が行われる直前だった。

「 けっこう、広い貴人檻宮を
あちこち探したんだよね。」

あれ、大檻宮に入れられてたら、
アウトだったよ。

天然の洞窟を利用した
地下の大空間に、
日の光は届かず
切り出した岩肌の壁を、
漆黒の闇が
湿気と
地下水を滴らせる
影を作ながら

オレンジの魔灯が並ぶ
階段を降りて、マイケルは
大檻宮に、。

無人の檻が左右に延々と並ぶ
陰湿な光景。

「 どうして、この檻の奥に
貴人檻宮があるかなー。」

オレンジの魔灯で
ほんのり明かりが有る中を、
『後宮選儀』最後の難関
『熱泉御祓』の礼へと
この闇を
高位令嬢から、歩いたはず。

「乙女は、こんなとこゴメンよ」

マイケルは奥へと進み
やがて、熱泉がある
貴人檻宮の中に
入る。
殆ど地下の離宮ともいえる
広さに、
オレンジの魔灯が
シャンデリアになって
連なるその空間は、
貴人が
囚われる宮とあって、調度品も
そこそこに
用意されているのも、
今朝と同じだった。

ただ、
寝殿を抜けて更に奥。
巨大な空間が現れ、
熱泉が沸いている
場所には、
今朝の時間軸では見なかった

『熱泉御祓の礼』に纏う
白装束が
用意されていた。

影牢の様に熱された
空気が微睡む中、
熱泉の中に、
磐石がある。

そこから、熱泉に飛び込む
のだ。

魔力があれば、熱を逃がせる
のだろう。
「でも、わたしは魔力がない。」
どーゆーつもり?
ブラックな職場もいいところだ。

『女官』を受ける
はずだった最初だもん、
よけいな
魔充石も、魔用品もない。
もう、
熱泉に飛び込めば
全身火傷でそのまま
召天だよ?

「 、、いっか。この磐石に
転移門の魔法陣があるから。」

熱泉の中にある
磐石に
マイケルは立った、まま真横に
そっと、腕を伸ばした。

『ブーーーーーーン』

今朝、覚えてる現象アゲイン!

見上げる程の 獄空間に
大魔法陣が
真横に
閃光を走らせて浮かび上がった!

「よし!やっぱり出てきたー。」

一旦腕を戻して、
マイケルは
腕を自分の身体を
抱き締めるように
クロスさせた。

「 大丈夫って、わかっていても、
やっぱり緊張する、、はー、」

深呼吸。
意を決して
1・2・3 → ダイブ!!
する!!
そのまま、
固く目を閉じて

空中の魔法陣に 飛び込んだ!

潜り抜けた感覚!!あり!
と、次に起きたのは
熱泉に
飛び込んだ飛沫と、

「 覇っ!!何だ!句っ 」

低音の声!
魔法が使われた
振動、
そして続けざまに

『バシャーーーン!!!』

水音が響いて、
抱き留められた感覚が
マイケルを
包んだ。
もちろん、
ずぶ濡れで。

「 マイケル、、なのか。」

魔法で
丁度良い温度にされた
熱泉の湯船に 広がり、煌めく
銀月色の長い髪が

マイケルの目の前にあった。

「ルーク?」

思わず、昼間に木の下で
落ちた自分を
受け止めた相手、

城下や海街のギルドで会っていた
感覚のままに

マイケルは その愛称を呼んだ。

ずっと ただの元巡礼者上がりの
明るい茶髪に、茶眼の冒険者
だった人物。

「 マイケル、なのか。首は、、」

マイケルが『ルーク』と愛称を
呼ぶ正体、
王将軍テュルクは

抱き留めた腕を
マイケルの首筋に這わせて
今朝間違いなく見た
光景の跡をなぞる。

自分が当てた
白刃の跡は赤い線になって
マイケルの首を半周していた。

「 あ、あ、、」

テュルクが
赤い線を撫でたまま声に
ならない音を出す。

「 ルーク、どーゆーつもり?
わたしを『妃候補』がやる
『熱泉の御祓』、やらせる
なんて!こうして助けてくれる
つもりでも、あんまりでしょ?」

マイケルはお構い無しに、
テュルクに
馬乗りになる体勢を、
少し直して、
ずぶ濡れて乱れて張り付く
銀月色の髪を 本人の代わりに
スッと整える。

「 わたし、魔力ないんだから、
死んじゃうところだよー。」

ついでに、
乱れたテュルクの胸元の
シャツも整えた。
そのマイケルの口調は、
『ルーク』に対してのままだ。

「 マイケル、死んでないのか。」

テュルクは改めて聞く。

「 どうだろ、生きてないかも?」

マイケルは、斜め上を見つつ
正直戸惑いながらも
返事した。
実際、
マイケルも気がついている。
ここにいるテュルクは
今朝のテュルクで、
自分が潜り抜けた魔法陣は
今朝、自分が器である身体を
脱いだ陣。

「 もしかしたら、死んでるよ。」

その返事はテュルクが、
ずぶ濡れのままの
マイケルを抱き締めて、
遮られた。

「 身体は、暖かい、それに、」

首は痛まないか。

熱泉の湯で 互いに服が身体に
張り付いた状態での抱擁。
マイケルは
テュルクの胸を腕で
押しやった。

「 ルーク?どうしたの?へん」

あと、今日が『ルーク』って
呼ぶのは最後になると、

マイケルがテュルクに
伝えると、
テュルクはマイケルの指先を
手に取り
何故か賞賛の口付けを落とした。

「 指先が、やけに甘い、、」

どこか子どものような顔で
呟くテュルクに、

「 ほら、教えくれたじゃない。
この季節、花の密を指に着けて
花鳥を呼ぶ遊び。そのせい。」

マイケルは、人差し指を
立ててテュルクに見せる。
『後宮選儀』間、何度も密を
纏わせたと。

「あれは、」
テュルクの眉が上がる。

上手に花鳥を呼べるように
なったんだよと笑うマイケルを
余所に、

テュルクは 片手で
自分の口を所在なく 押さえている

「 余り、 人に見せるものじゃ」

そして、テュルクは耳朶を
真っ赤に染めて俯いた。

「 ルーク!大丈夫!熱泉が熱く
なってるんじゃない?出よう!」

それを見つけた
マイケルが、
テュルクの上から降りようとする

すかさず、テュルクがそのまま
マイケルを抱き上げ
『ザバーー』
熱泉から 身体を起した。

「 わ、ルーク降りる!昼間も
木から落ちた時に助けてくれた
けど重いから、降ろして。」

戦くマイケルをそのまま
横抱きに歩くと
テュルクは、貴人檻宮の寝殿に
そのまめ
マイケルを降ろした。

「身体、濡れてるだろ?」

調度品の箪笥から手拭いを
投げて寄越した。

「 あれ?ここって、こんなに
家具あったっけ?ベッドも随分」

大きいような、、とマイケルが
訝しがるのをテュルクは

「今、俺がいるから、運ばせた」

自分の銀月色の髪も
軽く拭くと、テュルクは
互いが濡れた服を
魔法で乾かす。

「 ねえルーク。花鳥遊びは人に
見せるなってどういうこと?」

魔法ってホントにと、
自分の乾いた服を眺めつつ
マイケルがテュルクに
問いかけると、

「 男が、相手に、、破瓜を乞う
意図があるからだ、だから、」

他の男の前で するな。

マイケルを
降ろした寝殿にテュルクが
腰を降ろして 伝える。

「た、な、それってわたしが!」

ウソ、経験ないって
バレバレってことじゃない?!

「 分解能力で、身体の事象は
大抵わかる。会う度確認してた」

テュルクは、すまないと言葉を
紡いだが、さすがにマイケルは
カーっと身体が熱くなる。
それに、

「なら、やっぱり『閨の儀』で
処女確認て、いらないじゃない」

マイケルは、寝殿のシーツを
ぐちゃりと鷲掴んで叫ぶ。

「 それ、『後宮選儀』の事か?
お前『後宮』札を選んだのか」

『女官』に、なってからは
与えられた
『マイーケ・ルゥ・ヤァングア』
でしか呼ばれていない。

「まあ、訳があってその。」

云い澱むマイケルに、
かつてのルークが 云い方で

「 お前、『後宮』は意味、
解って札を選んだんだよな 」

マイケルの口をテュルクの口で
塞がれた。

「花鳥の密を口で舐めただろ?」

それは一瞬で、
当然の様に振る舞われ

「あの花の密は、
媚薬になる。口で拭うと、」
止まらなくなる。

今度は深く口を塞がれ
マイケルは、テュルクの舌で
密の残り香を
歯列の1つ1つ舐めとられて、
喉に
欲求の口付けで 赤い筋を
なぞられる。

「マイケル、乞うていいか?」
分解能力は相手の気持ちは
わからない。
「その口で言って欲しい。」

熱を孕んだアイスブルーの瞳に
ほの喰らい光を宿して
命するように首を触られると、

ああ、やっぱりルークは
王将軍なんだなーって思って
メンタル32才で
お初、牢屋にて。

破瓜の乞いにわたしは 頷いた。