後宮選儀、舞、唄、書。

『トゥーウーン』
『トゥーウーン』

八重に咲く
プリンセスフリル花盛りの
花園をホバリングしながら
フリルの花弁に
細く長い嘴を入れ込み
密を
吸う 銀色の花鳥。

マイケルは、
静かに
花弁に指を差し入れて、
指に密を纏わせると
そっと花鳥に指先を
啄ませる。

「 貴女、
随分と余裕がありますのね。」

その声に振り返ると、
後宮選儀、書の間に並んだ
書机に座る
侯爵令嬢からの雅ながら
ドスの効いた
睨み顔に当たった。

ここはー、元世界の
クールカルチャー仲間、
『シオン』が
教えてくれた乙女ゲームの
ヒロインっぽく

天然キャラでいくか?
庇護欲キャラでいくか?

マイケルは少し考えて

「 それは失礼いたしました。
私のような身の上、
書といいましても秀でたモノは
書けませんので、時間が余り。」

『女官』モードで、頭を下げる、
ことにした。

相変わらず指に花鳥くっつけて
だけどー。
『トゥーウーン』
実際。
この調整世界での
故事名言格言みたいなの、
そーんなの教育してない
から、
わかんないんだよねー。
だからって、
へのへのもへいとか
書くわけいかない。

「貴女の書を見せませ。」

雅ドス顔の侯爵令嬢が
マイケルの書机にある紙を
手にした。
「これ?何よ、」

アスキーアート
いわゆる顔文字ならぬ

文字絵とか 筆文字アートで
海神ワーフ・エリベスを
書いたんだよね。

「海神の御名を認めました。」

『トゥーウーン』
『トゥーウーン』

教育だけは、どうしようもない。
文字を覚えて、美しくが
精一杯。
『商会』『女官』の教養では
妃教育の
下地はないのだからねー。
だから、
市井からの『後宮』札
なんて精々
『女中』なんだよ。
雅ドス顔侯爵令嬢さま?

そこに衣擦れを鳴らして、
シャラシャランと
近づく天上人の姿から、
「粋、いなせな良い筆ですわ。」

鈴音が如く声の
助け船と共に
薄桃プラチナ色を煌めかせ
波うつ髪を広げる、
大公令嬢スゥカ様が
登場。するわけで。

「有り難う存じます。」

マイケルは、頭を低めて
カーテシーの礼を取った。

この時に感じたのは
元世界の自分と同じく
生粋の
令嬢の誇り。

だからかは、わからないけど、
次の

唄、
*・*゜
『トゥーウーン』
『トゥーウーン』*゜・*

花園を借景に
*゜・♪
大公令嬢スゥカ様が
マイケルの唄弾きに合わせ
゜*・* ・**♪
奥舞台で 蝶の妖精の如く
孔雀扇、艶やかに ♪

♪゜*・ 舞っている。*ο


結局ね、
♪ *゜スゥカ様はさすがなわけ。
高位令嬢に有りがちな
・゜**♪傲慢さもなく聡明・*

オーラは妃として充分♪゜*・*
**゜♪権威、容姿、資質、人柄

王将軍妃にふさわしく♪゜**
達観しているのかな♪゜
*゜♪ビルマのハープ
サウン・ガウちっくな楽器を
只今奏でながら・*゜*♪

わたくしマイケル。唄っています

♪゜**そう、BGM゜**

こうして、唄と舞を合わせ
選儀するのは、
有効よね♪・**゜・効率的

**゜・まだ女中が
いない中、演奏をする側も
♪**゜・選儀とすれば
上質の演奏に自然となるし**
**♪゜・舞も負けじと踊り手は
思うもの**゜・♪

恐ろしい男!老中キプチャク!笑



「うむ、素晴らしき舞であった」

老中キプチャクの低音が
奥舞台に渡った。

マイケルの唄弾きが終わり
スゥカが
孔雀扇でのポーズで
見栄を切れば
終了。

唄、舞。

奥舞台の選儀に現れたのは
ラスボスともいえる
老中キプチャクであった。

下級地位から舞と唄を
ペアに組み合わせ
披露してきた選儀も、

大公令嬢スゥカを最後に舞。
唄をマイケル。

そして、これから
スゥカが最後の唄弾きを
披露して
マイケルが 合わせて舞うを
もって全てが終わる。

『ダーゴラーーーン.O gloriosa
**゜**・゜

鐘と、讃美歌?が聞こえて、
マイケルはその音に
体を委ねる。

*・ο゜**『
ぐるりよーだ ダゴラーーーン』゜**

次第に周りを深い霧が
立ち込めた。
・**゜**・ο
『 Domina, どーみん 』 excels ゜**・


「マイケル、気分はどうだ?」

霧の中から出てきたのは
やはり大師。

だけど、最初みたいな
好々爺じゃなくて、

「 魔法は使えないけど、身体が
覚えているから、舞えるよ。」

ο゜**『
いきせんさ super sidera,..』
**゜**・゜・*・ο゜**

マイケルはフワリと比布を
巧みに使って、
もう
裾長になった
白装束の青少年が
持つ
金剛杖に交じわせた。
祈りの唄が
ο゜**
『 ゴガラーーーンガラー**゜ο゜
**・゜』* 聞こえる

「 舞踊も格闘も、新体操も
ほーら、ごらんのとーおり。」

真っ白な霧の中でも、
2人迷いなく、マイケルは笑い
舞う。

ご令嬢の嗜みだよと、
マイケルは、
比布をリボンに見立てつつ。

「マイケル、もうすぐ時だ。」

青少年の姿で、大師は
マイケルと双璧の影を映して、
さらに舞をまう。

*・**『
すんじらしーでら qui te きちや』
**・゜・*・。

「わかってる。」
「この先は、そなたの考える処」
「ありがとね。」

「スゥカ嬢は、どうだ。」
「 どこか、元世界の自分を
思い出すかな。かつてのね。」
「政略結婚で許嫁のいる頃か?」

「 一見全てを持ち、その訳を
寂しく理解していた自分だよ」

**゜**・゜ 『 ・*・ο゜**
vreavit provide,きゃんべぐるー
りで』**゜ **・゜

「覚えているか?」
「何ー?」
「なぜ元世界で遍路を始めたか」
「もう何年前のことだよ?」

「それは、『結願』したか?」

**゜**・゜・
『 lactastiらだすで 
...ゴガラーーーンガー*・』゜・*・

濃霧の中で問答を繰り返す。
そしてほどなく
舞の流れで、マイケルと大師は
相対すると、
大師の金剛杖が、
『ブーーーーーん』と
反りの白刃に
変化した。

ゆっくりと、
大師が マイケルの口元に
差し入れるが如く
所作で
刃を垂直にマイケルに
立て上げる。

**・゜・*・
sacro『 ubere.  
さあくらぅーべり**゜*
*』・゜・*・ο゜**
...

身動ぎもせず、
大師を見るマイケルに、

「時きたり。」

一言伝えて大師は霧散した。

真っ白な霧は
晴れて奥舞台に戻る。

終わりのポーズの、
天を仰いで
喉を見せる姿で、
マイケルの舞は

終わっていた。

唄弾きを スゥカも静かに
終わらせている。

沈黙は一瞬。

パンパンと老中キプチャクが
拍手をして

「 スゥカ嬢、見事な唄弾き。
優雅なる時であった。
実に悠久なる旋律、鈴が声色。
うむ。これにて
選儀の技を終える。奥局!」

終了にザワつく
妃候補達へ 端的に伝えた。
そんな
老中キプチャクの合図で、
奥局が 舞台に進み出る。

「 此より、地下宮にて、
『熱泉の御祓』を行います。
お一人お一人、高位の方より
地下宮、貴人檻宮へ降り、
所作書き付けなど、
用意された 熱泉にて、御祓を
終えられましたら、閨の儀方は
ご案内します。ではお部屋へ」

伝えられた言葉は、
この後の事柄。

これまでの後宮選儀で
妃位が決まり、
側女や別室で
選儀されていた女中位が決まる。

そして、
妃候補が挑む
『熱泉の御祓』は、

魔力の無いマイケルには
死を意味する。

朧気にそれを理解したマイケルの
耳朶に
柔らかな 若い大師の声が
聞こえた気がした。

『トゥーウーン』
『トゥーウーン』
花鳥は飛び

「マイケル、気分はどうだ?」

何度も。
密を啄む。