薄銀のドームで覆われた
夕暮れの空に
『ドジャ、ベショ』と
黒い雨が溜まる。

ウーリューウ藩島の大聖堂。
城の敷地に組み込まれ
建つ鐘塔は、
早朝からひっきりなしに
音を響かせていたが、
今は沈黙し、
大聖堂の一角に佇む。

珠に空に張り付く
黒い泥雨の、『ドジャ、ベショ』
振動が不快に響くのみ。

その白亜の建物の奥で、
礼拝堂の天井を見つめる、
牧場色をした
巻毛の姿がザードとハーバナに
見えた。

「 ヤーオ・ルゥ・ヤァングア嬢」

優国魔導師ザードが、
柔らかく名を呼んだような?

城内職人ハーバナは、
何故か感じて。

「魔導師ザード様、ハーバナ様」

振り返ると少女と女性の
狭間に揺れる空気も
親しげに
ヤオが 頭を下げた様な。

「 無事に海から帰ってこれたの
だね、ヤーオ嬢。役を果たして
くれて ありがとう。魔力は?」

次元津波は大丈夫だったかと、
ザードは
漆黒の後ろ下げ髪を屈めて
ヤオの手を取り、
甲に敬愛の口付けを落したのだ。

「え、ザード殿とヤーオ嬢って
そのような仲、で?え、え?」

濃茶の纏め髪を揺らして
ザードとヤオを交互に
ハーバナは見る。

「 ハーバナ殿、自分は今
ヤーオ嬢に求婚中なんです。 」

まだ返事もらえてないですが、
といい笑顔でザードは
ハーバナに口を弓なりにした。

そのやり取りにも、
ヤオはどこか他人事に

「 ザード様、ハーバナ様。
マイケル様って お年、32才
だったんです。ヤオは、何も
わかってなかったのです。」

え、え?何?ハーバナが
ザードを見るが、
ザードは身動ぎ無しで
ヤオを見ている。

「 あんなに、魔力の無い事に、
お心痛めてたなんて。ヤオは」

側仕え失格ですと、口を紡ぐ。

そんなヤオの言葉にザードと
ハーバナが 違和感を
覚え、声を掛けようとして、
さらに礼拝堂に
姿を表したのは、
この大聖堂の枢機卿だった。

「 御集まり有難く存じます。」

教皇に使える
枢機卿の中でも
高位の服を身にする彼。

「教皇等は?」

ザードがヤオを気にしつつ
問うと

「 教皇様等は、ワーフ・エリベス
像の路を開く祈りを。何方かの
お陰で、像の数が多くなりまし
た故、これまでよりも
礼拝が必要なのでございます」

どこか恨めし気に
枢機卿はヤオに
視線をよせ
応えると、天井を指差した。

「 まあ、それは別として。ご覧の
状況でございます。魔導師
ヤーオ殿には地空結界への
全藩島魔力を纏め注入の始めを
お1人様で、すべて滞りなく
行使頂けたと報告 頂きました」

ザード様も無茶なさると、
枢機卿が
苦笑を浮かべれば
事情を耳にしたハーバナが
驚きで片眉を上げた。

「 藩島魔力が最大に注力され、
結界は行使し続けておりますが
次元津波による衝撃で、陣に
無数の穴が空いております。」

それさえ
構わず枢機卿が 天井の窓を
促すのは、

繊細豪華な
ローズウインドウの
ステンドグラスに無数の穴が空き
異様な
黒紫煙を上げていたからで。

「 現状。王将軍の矢守護にて、
穴にも膜が張られております
が、他国の『術』が穴で薄く
なる守護に張り付いており、」

その『術』が膜を、焦がす煙が
ローズウインドウから
無数に上がる煙なのだと
ザード達に理解させた。

ヤオが 計画を口にする。

「この『遠隔の窓』から、
陣の穴をつないで、 結界陣を
完全にするしかないわけですね」

そのセリフに枢機卿は、
ですので、
お越し頂いた次第ですと、
頷いた。

ハーバナが思わず額に手を当てて

「 しかし、これは大変だ。
『術』に障り無いよう魔導師が
施す隣で、魔職人が繋ぎをする。
本来なら、個々で出来る作業が
2人組にてやることになる! 」

『術』も『繋ぎ』も魔充石が
使えない魔法ですよ?
と、ザードに投げた。

ザードは
顎に片手を当てて
考えていたが その目は色を
宿してきている。

「 いや、それがちょっと面白い
事になっているのですよ。
ハーバナ殿、『オキノハマ』の
特質で、翼龍隊長ドゥワネイ殿
から 通信がきてるのです。」

ハーバナに、自分の通信表示を
開いて見せてから、

ザードは、意を決して
宰相カハラに 指示を仰いだ。

『 翼龍隊長ドゥワネイが未だ
同行龍に乗せている、
オキノハマの漁師に『術』の
漁をさせてみてはどうか。 』

それを見た、枢機卿をはじめ
ヤオとハーバナの口が
一斉に空いたが、

「 どちらにしても、時は
待ってくれないのですから 」

若き、優国魔導師ザードが
やんわりと笑って、
それらを往なした。