『トゥーウーン』
『トゥーウーン』

広間から見える中庭も花盛りで、
花と花を鳥が繋いで
ホバリングをしている。

「後宮選儀の者ですか?名前を」

侍従長と侍女長の元
花絵10枚の札を、渡され、
マイケルは
侍従長が座る席をチラリと
確認して、

蓮の花札裏に
『後宮にマイケル有り』
と書いて 侍女長に

「お願いします。」と
手渡した。

侍従長の席横には布令書きに

『自ら望むは奥か官か。奥なる
資質の者は泥より出でたる
菡萏が弁に宮入る己が名を。
官なる資質の者は宰相が弁に
仕う己が名を秘すべし。 』

出されている。

選儀は、始まっているんだよね。

まずは読み書きが出来るか?
ある程度の教養があるか?
機転が効くか?

この1つでわかるんだもん。
で、後の面談で出した札の
理由も問答されるんだよ。

「ふむ、では左の廊をお行き
下さいまし。案内があります」

侍女長は札を確認して、
マイケルに示すと、
次に来た娘の札を受け取る。

「ありがとうございます。」

わたしはカーテシをして
左へ進んだ。

たすかるのは、
調整世界って わたし達が
いうところの
『異世界』と『元世界』の間
と、だけあって
モノの呼び方は
なじみのモノに変換される
みたいなんだよねー。

だからさ10枚の花札には、
古今東西よく聞く花が
書かれてたんだよ。

それこそ、菊・牡丹・梅・百合・蘭・菖蒲・水仙・薔薇の札。

あるていど教養がないと、
自分が希望する札に
書くこともできないんだよね。

「 奥の希望の方、こちらの先に
翡翠色をした花が飾られた
扉がございますので、どうぞ」

侍女が途中で立っていて
口頭で告げられる。

ほら、こんな風にドンドン
お試しされるのよ。

牡丹なんかは「花王」て、
言われてて、
芍薬は「花相」って呼ばれる。
宰相ってこと。
だから、
最初の時は、
シャクヤクの花札の裏に
『女官にマイケル有り』って
書いたけど、
今回は違う。

「翡翠色ですね。
ありがとうございます。」

『女官』の、時は
萌葱色の花が飾る部屋。
イジワルだよねー。
だってさ、萌葱色の花なんて
ないんだよ。

正解は蓬の葉の部屋。
芍薬って薬になるし、邪気祓いに
花薫がなるんだよね。
で、蓬と同じ季節に花咲し、
蓬も薬と邪気祓いの薫りの
植物だからなんだよ。

「あ、海の色、水緑の花。」

なるほど
花宝石と呼ばれる翡翠葛ね。
高貴な簪にも、なる花。
下がり簪は 若さも表すのは
どこの国だっけ?

どこか、後宮の候補って感じー。

「失礼致します。」

一声かけて軽くカーテシ。
で、中に入る。

ちなみに、
菡萏はかんたん=蓮の花。
泥から咲く花って、
わりと郭をイメージさせる花を
あえて持ってくるのって、
自虐ネタ?
察してくださいって?
王将軍は次期王帝の弟だけど、
別腹ってことかしらね?

それだけではないだろうけど。

「選儀のマイケル。
姓はなしか?」

年齢の高い
近達長らしき男が
マイケルを見て口を開いた。
独特な裃で
それはわかったが、
マイケルが知る人物ではない。

「 元巡礼の流れモノで
ございます。姓はございません」

応えると、
隣にいた これも年齢ある
魔職人長だろう者が口を開いた。

「 元巡礼者のマイケル、、おぬし
タヌーの処で世話になる者か?」

?もしかして、

「タヌー商会で働いてますが。」

マイケルが応えると、
『女官』では?と、
魔職人長は怪訝な顔をしている。

一瞬、マイケルは強張ったが

「いえ、『後宮』希望です。」
迷いなく返事する。

「ふむ? いいか。ならば。」

魔職人長は、近達長に合図を
して、問答の開始を
促した。

「それでは、先程の花札に、、」

近達長が、
わたしに 問答、質問をしてくる。

この問答で、さらに教養を
試されるんだけど、
その間に こっちの魔職人長が
わたしの体を分解析するん
だよね。

「 蓮を後宮希望の札にした意図を
己が考察したものがあれば、、」

まず、他国のスパイじゃないか?
病気や武器はないか?
そして、魔力の量と、
子供が産めるか。

魔職人長の黒い眼が
キラキラと視てくるんだよ。

「 はい。まずこのウーリューウ島
の干潮干潟をあらわす泥から
咲く花のイメージが 今回の
後宮選儀を行う推移をも感じ、」

わたしは、問答に応えていく。

そもそもね、今回後宮選儀が
行われるのは異例なんだよ。

だってね、
後宮を持てるのって、王帝だけ。
貴族でも、側室はないのよ。
まあ愛人はしらないけど。

「 泥は豊富な栄養も含み、
蓮の花は泥より咲きつつ、
実もなる花でございます。」

それが
カフカス王領本国から
後宮の令が
されたのって、
このウーリューウ藩島がね
急にさ、
金の卵を持つって
わかったからなんだよね。

「これから先繁栄する藩島主を
意味する 菡萏。蓮札が奥と、」

そこまでマイケルが言うと、
魔職人長が 出し抜けに
口を挟んだ。

「この状況をつくったのは、
他でもない、マイケルおぬしだ」

「っ!」

もうわたしの体を分析
したんだと思うし、
今の1言で わかった。
この人、
城付職人ハーバナのパパだわ。
なら、この近達長は、
将軍近達グランのパパ?

「 タヌーは、わしの友人でな。
おぬしだろ?魔充石を発見した
モノは?ん?マイケルよ。」

ハーバナパパの言葉に、
きっとグランパパも 顔色を
変えてきた。

「それは、本当か?お前が?」

あー。はい。怖い。
そうです。その通りです。

そして、
この事態を引き起こした犯人。

「 しかし、タヌーからは、
『女官』にと聞いていた。
だから、不思議でな。そら、
『女官』試験用に、持っている
モノがあるのだろう?出して」

マイケルは、俯いてスカートから
1つのバンドを出す。

「通信用の魔用品です。」

そっと撫でると、
空中に光る画面が浮かんだ。
そこには、ウーリューウ藩島
地図が表示されている。

「例えば、今この藩島地図に青く
点滅しているのが 海神ワーフ・
エリベス像。赤が水龍骨の
ある場所です。今、ハントして
いる冒険者が、送ったモノです」

マイケルが 出した画面に
食い入る様に2人が
乗り出す。

「 現在念じて会話は出来ますし、
直接魔法で手紙を飛ばす事も
出来ますが、このような画面を
使う事で、多人数への情報を
共有できます。魔力節約にも」

バンドを、ハーバナパパへ
渡すと、

「後宮希望でも提出できます?」

マイケルは 敢えて『後宮』希望を
念押した。
それを手にしながら、
魔職人長は、強い眼差しで
マイケルを見返す。

「 マイケル。おぬし、魔力無し
だな?おぬしとの婚姻で、
生まれる子供に、体質が引き
継がれる懸念をどう思うか?」

ここは、後宮選儀の場。

「なっ?!」

きっとグランパパが、
信じられない顔してる。

そりゃ、そうだよね。
それに、わたしは 、、

「タヌーから息子の話も聞いて
いたが、おぬしを視て、、
おぬしが下手に『女官』を選ば
なかったのに、実は思う事も
ある。その、いろいろにだ。
ただ、友人としては あの家とて
高い能力を、持つ商家。
『後宮』は良い選択になる。」

息子には悪いがと、
魔職人長は言葉を濁した。

「う、うむ。なら、少し
詮議に入る。一旦、退出せよ」

近達長の声に、
侍従が入ってきて、マイケルを
外に促す。

「ありがとうございます。」

カーテシーをして、その場を
出れば侍女が廊で 別室を
案内してくれる。

マイケルは、静かに中へ
入った。

そこにも花咲き誇る中庭が
見えて、

『トゥーウーン』
『トゥーウーン』と
花鳥が飛ぶ。


マイケルは、
ひとり
花の密を指に着けて、
「おいでー。」と、花鳥を

震え凍える
指に纏わせる。