城職人のハーバナは、
王将軍テュルクからの命を受け、

地下獄卒宮にいた。

弔い鐘が止まり、
祓いが終わった
今。
突貫工事で、
地下獄卒宮の
1部改築を余儀なくされている。

城職人ハーバナ達が
作業をする傍らには
和大陸で
見るキモノ姿の
異世界人達が、

『ワシタチュ、
ドゲエスルツモリカ 』

それぞれ
老若男女

『タスケチクリイ! 』

入り乱れている。

王将軍テュルクの
計らいは
檻の撤去と、跡地を
仮の居住スペースにする事。

王将軍が命じたのは、
700余りの
異世界人の
収容場所を
作る事だった。

他国との戦闘時には
多数の捕虜を収容する

地下獄卒宮。

藩島中の犯罪者は、
基本
地域のギルドで収容される為、
非戦闘時の
今は
今朝まで
マイケルが居てた
貴人牢宮以外は
巨大な空き空間である。

『ナンバン、バテレンカ?』

ハーバナ達が魔法を使う様を、
連れて来られた
異世界人は
怯えながら、
作業を見ている。

『ウメエコトイウチ!
ダマクラカサレンド! 』

『シマア、シズンデシモウタ。
ドゲエシタライインカ、、』

その様子を見ながら、
城付きの職人達は
地下獄卒宮の改築と
合わせて、

異世界人の翻訳魔用品を
試行錯誤
もしている。

「独特の国ことば?とは、
思うので。翻訳ベースを
感情起伏から直接言語化する
魔法式でいきますね? 」

どうでしょうか?と、
若き魔導師ザードが、魔用品の
主力陣の構成を
異世界人達を 見ながら
城職人ハーバナに 提案する。

「そう、ですね。大陸言語とは
違いますし、それで良いかと」

ハーバナの手には小さな金属。

魔導師ザードが
漆黒の後ろ下げ髪を揺らし
空中に魔法陣を紡ぐ。

彼の眼が黒曜石色に光り、
魔法陣が完成すると、

「ザード様構成の陣を複写!」

取り囲む職人が 合図し、
その魔法陣を
手の内に
プリントして、
手元の金属に
組み入れた。

そして、今度はその金属を
異世界人に持っていくと、

『コエエケン、コンデエ!』

彼等の腕に張り付き
陣は皮膚に埋もれた。

ハーバナが
異世界人の1人に
ゆっくりと話掛けると、
相手は 意志疎通できる
事に驚いている。

『おおーっ。』

職人達も 囲む兵士も、わかって
感嘆の声を漏らした。

それを確認して魔導師ザードが
立ち上がるハーバナに
声をかける。

「ハーバナ殿、それでどうですか
彼等の分析は?魔因子はなし?」

歩きながら、さりげなく
ザードが防音の魔法を張ったのを
ハーバナも 確認して

「ええ、マイケル様と同じです。
同じ世界人かもしれません。
『呪い』が効かない人々です。」

声にした。ザードの目が
見開く。

「あと、彼等の言葉で、
『オジュツサン』というのか、
『ヒーラー』、治癒師が。」

ハーバナが冷静な顔を
ザードに向ける。
濃茶の纏め髪が よりしっかりと
纏め上がって見えた。

「本当に?それって。この数だ。
魔用品を使えば、彼等は、」

驚くザードに、ハーバナが
表情を固くする。

「はい。王族従事者にすれば、
『人の盾』になります。
マイケル様だけの特質が、この
数になれば、、、婚姻による
異種配合によって、特殊な
家門も出来るかもしれません」

ううーっん。とザードが
顎に片手をあて、喉をならす。

マイケルには 魔力がない。

それはハーバナ達の
分解能力から視れば 簡単な事、

魔因子がないのだ。

それがどうこの世界に隔たりを
作るのか、
魔術師による『呪い』さえも
跳ね返し、『自浄』さえする。

それ故に歴史的にも
異世界人が出現すれば
『聖人、聖女』と
崇められた時もある。

それでなくとも、
魔因子が体に影響を及ぼす
為と研究され、

生態として、
魔力を持つ者より遥かに
マイケル達は
健康で頑健だとも判明した。

これは血族内で婚姻を
繰り返し起きる早亡や、
他国、反乱分子から
呪いを
放たれる王族には、
派手ではないが、
大きな防御体質だったのだ。

「でも、逆に異種配合によって、
魔因子のない種族が増えること
もあるってことですよね? 」

そのザードの言葉にハーバナは
さらに重ねた。

今まではマイケル1人の
特異質。

「それは合わせて、頑健な体の
種族が増える事にもなります」

700を越える異世界人となれば
話はまったく変わる。

これは、
宰相様に報告します。
と、ハーバナは 硬い表情で
通信を表示させ、
指を舞わせた。

「マイケル様がいなくなれて、
今度は その世界人が、こんなに
たくさんやってくるなんて。」

おもわず
若き魔導師ザードは、
これも因果なのかと、溜息を
はあーっと吐く。

マイケルを慕うヤオを
想いながら。

「とにかく、彼等の事が外部に
出れば火種になるって事だな。
この獄卒宮を、当分は彼等の
仮住まいの城にするしかない」

ザードは、
報告を終えたハーバナに、

「ハーバナ殿、すいませんが、
まだ問題があるみたいで。
こちらも、お願いします。」

指を舞わして
ハーバナの通信表示に案件を
送信する。

「これは?!本当ですか?」

その内容を見たハーバナが
顔色を変えた。

「早急に対応です。ハーバナ殿の
意見も伺いたい。魔法陣を
扱うもの同士、取りかからな
ければ、、宰相様が言うに、」

ザードが
その先を濁すが、
ハーバナが

それを継いだ。

「侵略のモノがくる、、ですね」

只でさえ、外の異常状況から
それは免れない。

幻とされた、生きた水龍。

その上、この異世界人の確保。

ザードとハーバナは
2人同時に
頷いて、
ある場所に向かった。